甘辛ゾーン-1
ああ、でもですね、こんな夜の道端で出会ってしまったのが悪いのですよ。あ、いえいえ、違いますって。
そもそも私は、晩ご飯のトレビアン風オリジナルアレンジ流シュゥフルゥルポトフを作るのに必要な材料を買う為に外出したのであって…
…や、やめて下さい!そんな目で見ないで下さい!告訴しますよ!
わ、私、帰りますからね。こちらを、私の後ろ姿を見ないで下さい!
……あなたがどうなろうと、私には…私には……。
…くっ…見られ続けても……何も感じませんからね…!
さっ、さよなら!
………。
「…にぃ〜…にぃ〜…」
…なんですか、その目は。
別に、私……。
…………………。
やってやりますよ!ええ、やってやりますとも!
「か、勘違いしないで下さいよ!あなたがかわいそうだから、なんて……これっぽっちも思ってませんよ!私の、明るい善人な良心が痛むから、仕方なく…」
「ふにゃ〜♪」
「……お持ち帰…だめです!ここはパクリジャナイ精神で…」
「…なぅ〜〜?」
「ややややややっぱりお持ち帰りいいぃぃぃ!!」
…自宅に着いてから軽く自己嫌悪…。
だってだって、本当に仕方ないんです!
買い物帰り途中に、見てしまっただけなんです!
道端に置いてあった、一つの小さなダンボールを!
何かなと思って見てみたら…なんなんですか!アレは!孔明の罠ですか!
中に猫が入ってたんですよ!
猫ですよ、猫!
そして子猫ですよ、子猫!
その上捨て猫ですよ、捨て猫!
しかもブラックキャットですよ、ブラックキャット!!
めっさ可愛いんです!だから仕方ないんです!
「…私のファーストネームはナギ・フレイル…。以後お見知り置きを」
「………」
「…や、普通に凪と言う名前ですが。あなたの名は?」
「…なー」
「…無いのですか?」
「…なー」
「…まだ無い。って?」
「…なー」
「…ミルク?」
「…なー」
「…たぶん、私のでは出ませんよ?」
「………」
「…疑ってますね!?いいですよ、試してみますか!」
「…なー」
「…やっぱだめです。初めてのボニューはショウちゃんに…と、決めてありますので。もし出てしまったら…」
「………」
「…嘘です、ごめんなさい…」