傷跡-6
「本当に私でいいの?」
「俺はいつまでも待つって言ったじゃん!」
伊藤くんは、こんな私をずっと好きって言ってくれてる。でも、私はそれに答えられてない。
私がこんな風じゃなかったら、あんな目に合ってなかったら…、今頃、どんな笑顔で彼の隣にいれたんだろう。
そっと彼の手を触れる。怖い…。あの痛みが頭をよぎる。でも、この手は、私を傷つける手じゃない。私を愛する、私の愛する人の手だ。
温かい…。涙が頬を流れる。
その頃、私には夢ができた。こんな私だけど…、こんな私だからこそ、助けられる人がいるんじゃないかって思った。カウンセラーの仕事…。
本当にみんなに支えられて今日まで来た。だから生きてこれた。この温もりの中で生きているのは楽だ。誰も私を傷付けない。
でも…、私はもっと強くなりたい。最先端のアメリカでカウンセラーの勉強がしたい。
まだ後遺症の残る私が、言葉の通じない外国で、どれだけ頑張れるかわかんないけど…。
不安はある。迷いはある。お金だってかかる。
でも、みんなが応援してくれた。だから、私は頑張れた。
卒業式が終わって、ニューヨークの大学に合格が決まった。留学の準備も着実に進む。
「彩夏…。」
初めて…、伊藤くんとホテルに泊まった。もう出発の日は近い。本当はまだ怖い。…でも、今日だけは、私が心から愛する人と朝まで一緒にいたかった。
伊藤くんの手が私の肩に置かれる。私はそっと目を閉じた。初めての…キス。唇が震えた。私はこの日を、この温もりを一生忘れない。
私達はそれ以上、何もしなかった。ただ、朝まで手を繋いで、眠った。
出発の日、空港までみんなが見送りに来てくれた。
お母さん、天国のお父さん、お兄ちゃん、由香、伊藤くん…。ありがとう。私、産まれて来てよかったよ。だって、みんなに会えた。私、斎藤 彩夏でよかった。
みんなの声に背を向けて、歩き出す。涙がとめどなく流れる。私、絶対負けない…。