傷跡-5
数日後、伊藤くんから、美化日誌を渡された。校内の掃除がしっかりできてるか、チェックをして次の人に渡す日誌だ。
開いて日誌を見る。ページの空欄に小さい字で何か書いてある。読むと、
=斎藤さん
今日も暑いね!もうすぐ体育祭の練習が始まるね。俺は昨日、夜中までテレビでサッカーを見てて寝不足です。
これ読んだら消してね。=
と書いてあった。びっくりした。…。私からは返事書けないのに。消して、隣のクラスの美化委員に渡した。
それから、伊藤くんのページにはいつも、私宛てにメッセージが書いてあった。いつの間にか、それを読むのが楽しみになってた。
体育祭も何事もなく終わって、冬休みが近付いている。2学期が終わったら、美化委員も終わりだ…。
伊藤くんから日誌を渡された。もう、彼からもらえるのは最後だろう。
=これ俺のアドレスです。=
私…。伊藤くんのこと気にならないわけじゃない。でも、大切な由香を裏切ってまで、伊藤くんとどうこうなりたいなんて思わない。それに…、私に人を好きになる資格はある…?彼氏ができて、キスを、それ以上を求められたら…?
書かれたメッセージを消す。涙がこぼれた。
「彩夏?」
下校途中、由香が心配そうな顔をして私の顔をのぞき込んでいる。
「彩夏…、私ね、伊藤くんにずっと前に相談されたの。斎藤さんと仲良くなりたいって。かなりショックだったよ。私、伊藤くんのこといいと思ってたし!」
由香は続けて言う。
「でも、よく考えたら、それで彩夏が明るくなれたらそれが一番いいなぁって思った。彩夏はとってもかわいくて、優しい女の子だよ?だけど、時々、暗い顔をしてる。」
由香…。
「まだ私達は出会って日も浅いし、何が彩夏をそんなに苦しめてるのか私には分からない。いつか話してくれたらいいなぁって思ってるけど。…これからもずっと彩夏と友達でいたいから。伊藤くんはいい人だよ。よく考えてあげて?」
私、由香と友達になれて本当によかった…。
「あっ、でも、私が本気で好きな人だったら、彩夏にも譲らないよ。その時は正々堂々と勝負ね!女は怖いから!」
二人で笑った。由香は次の日、伊藤くんから、アドレスを聞いてきてくれた。
メールは楽しくできる。笑い顔の絵文字を入れたり。でも、実際は…。目が合わせれない。会話ができない。
もう…疲れたよ…。
「焦りすぎだと思う!」
由香が言う。
「いきなり、伊藤くんとペラペラ喋るなんて、無理だよ。まずは、おはようだけでもいいんじゃない?」
「おはよう…。」
本当に、それだけでも精一杯だった。でも、それが二言になって、三言になって…。確実に私達の距離は縮まっていく。
高3になる頃には、伊藤くんと二人で遊びに行ける位になった。