傷跡-3
聴診器をあてるために、服を触られる。ビクッとした。震えが止まらない。
先生なのに…。あいつらじゃない…。頭では分かってる。でも、震えが止まらない。
退院して、母とタクシーで家まで帰った。人が怖い。視線が怖い。触れられるのが怖い。
私、もう…。涙が流れる。
家に帰ると中3の兄がリビングにいた。普段、この時間は、受験勉強で滅多に部屋から出てこないのに。
「彩夏が…生きてて、よかっ…」
私を見ると、兄は号泣した。いつもはそっけない兄が…。涙がひたたり落ちる。
「お母さん?」
布団の中で言う。お風呂も、寝るのも一緒。
「私…何のために産まれてきたの…?」
あいつらに犯されるために私は産まれてきたの…?
「彩夏?」
母は暗闇の中、上半身を起こした。私は母に背を向けている。
「お兄ちゃんや、あなたが産まれた時、お母さん思ったよ。世の中にはこんなに可愛くて、大切なものがあるんだって。絶対に幸せにするって心に誓ったの。それは今も少しも変わってない。」
幸せ?幸せって何だっけ…?
「お父さんも、彩夏に会えるの最後の日まで楽しみにしてたよ。」
父は、母が私を妊娠中、病気で亡くなった。
「…お母さんの初めての人ってお父さん?」
私の初めてのキスもセックスも…。
友達とそんな話が出る度に、胸をときめかせていた。あの日々はもう戻らない。
「彩夏…!」
母は痛い位に強く、私を抱き締める。暗闇の中で二人のすすり泣く声だけが聞こえる。
今だけは…、母の温もりの中で目を閉じた。
それから、私は学校に行かず、警察にも話せず、ずっと家にいた。何を見てもあの光景が頭から離れない。何を食べてもあの、無理矢理入れられた汚いものの味がする。
ある夜、目を覚ますと、隣に寝ていた筈の、母がいない。不安になって、起きると、リビングで話し声がする。
「殺してやりたい…。」
お兄ちゃん…?
「何で…何で、彩夏があんな目に合わなきゃいけないんだよ!…俺が絶対見つけ出して殺してやる!!」
年が少し離れてるのもあって、会話も少なかったお兄ちゃん…。
「お母さんだって死んでも許せないよ。でも、そんなことしたって何も変わらない。私達が強くなって、彩夏を支えてあげなきゃ…。一番辛いのは彩夏なんだから…。」
そう言う母の方が私より辛そうだった。
学校に行かなきゃ…。でも、