ICHIZU…E-1
区立総合運動公園はその名の通り広大な敷地内に、野球場やサッカー場、テニス・コートや陸上トラックなど、あらゆる屋外スポーツに競技に利用出来る施設である。
日曜日の早朝、普段は利用者もまばらで閑散としているのだが、その日は違っていた。
地区の中学校が32校。野球部関係者や応援を含めれば、総勢3,000以上の人々が球場周辺に集っていた。そのためか、500台は収容可能な駐車場はすでに満車の状態だった。
佳代達、青葉中学は球場の一角に陣取っていた。そこは球場の外壁による日光が遮られる絶好の場所だ。
監督やコーチを含め、野球部だけで60余名。父母や学校関係者を入れれば130名は憂に超える皆が、球場の開場を今や遅しと待ちわびていた。
(胸がドキドキする感じ。久しぶりだ…)
佳代の背中に付けられた真新しい背番号〈15〉が、より一層、気持ちを昂ぶらせていた。
それは3日前に遡る。
練習試合が行われた後、最終的なベンチ入りメンバーを決めるための話し合いが、監督の榊とコーチの永井によってなされた。
15名のうち、12名は3年生のレギュラーと控え及び2年生も川口直也と山下達也ですんなり決まったが、最後の一人で榊と永井の意見が分かれた。
「最後は…青木で良いかな?」
榊がそう永井に尋ねた。が、永井は首を横に振ると、
「今日投げさせましたが、調子が悪過ぎます。点こそ奪られませんでしたが2イニングでヒット5本、2四球でしたから」
「しかし…2番手ピッチャーがいないんじゃ…」
「今の状態なら上野や直也の方が使えますよ」
榊は永井の意見に納得したのか、メンバー表を覗きながら訊いた。
「じゃあ誰か他にいるかね?」
「澤田がいるじゃないですか」
永井は自信を持って答えた。
「守備はまあまあですが脚は有ります。今日の練習試合でウチが先制出来たのは彼女の活躍ですから」
熱っぽく語る永井。
「しかしだなぁ…」
「それに、監督が言ったじゃないですか。澤田を緒戦に使うって」
結局、永井の説得に根負けしたカタチで佳代は最後のメンバーに選ばれたのだ。
だが、当の本人にとってそんな事どうでもよかった。ジュニア以来、試合という緊張感溢れる場に身を置ける事が嬉しかった。
立ち上がって周りを見渡す佳代。ほとんどが対外試合などで見覚えのあるユニフォームばかりだ。
「何してんだ?オマエ」
となりに座る直也が訊いた。