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『繋がりゆく想い……』
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『繋がりゆく想い……』-1

虫の音が聞こえる……

緩やかに流れる河川の脇の草むらに俺は寝っ転がっていた。九月にもなると昼の暑さも夜には掻き消えて、肌寒さすら感じてくる。

夕立が降ったせいだろう、今日はやけに青臭い……

俺、風見祐樹(かざみゆうき)は、いつの頃からかここで時間を潰す癖がついていた。今、大学は自主休講中。もっとも最初から目的があって入った訳じゃなく、ただ就職までの時間を引き延ばしたかっただけ。だけど、今はもうどうでもいい……

ちょうど一ヶ月ぐらい前、身体の不調を感じた俺は病院へと足を運んだ。そこで俺を診察した白衣の男は告げる。

『精密検査をしましょう。あ、いえ、念の為ですよ……念の為……』

作った様な、その言い方に何とも言えない胸騒ぎを感じた。そして検査を終えて数日後に再び訪れた俺に沈痛な面持ちで白衣の男は告知する。

『誠に申し上げにくいのですが……』

白衣の男は話を続けるが、頭が混乱していた俺は何の事を言われているのかよく覚えていない……

手遅れ……余命……
そして、死……

そんな単語だけが、やけにくっきりと意識に刻まれていた。

どうやら俺は、死んじまうらしい。

まだどこかで他人事の様に思っているけど、嘘でもヤラセでもなくこれは事実なんだ……

風景が急激に色褪せて行く様に感じた……モノトーンの世界で俺を包んでいたのは虚無感。

突然目の前に現れた壁。
それは人生の行き止まり。何もかもが虚ろになって、全てがどうでもよくなった。

だから、俺は大学に行くのを辞めた。何故なら意味を見出だせない場所に行く必要などなかったから。

だけど残された時間をどう過ごせばいいのかなんて、すぐには思い付かない。だから俺は考える事すらやめた……

「よいしょっと…」

気怠い身体を起こして、俺は道路脇に停めていた車に乗り込んだ。そのまま宛もなく街を流す俺……

結果はわかっているのに時間だけが残されている。まるで人生の消化試合みたいな状態の俺は、しばらく車を走らせた後マンションの駐車場に車を入れた。

「コイツももう売っぱらっちまうかな?」

降り際、愛車を眺めながらボソッと俺は呟く。

贅沢な事に俺は今、マンションに一人暮らしをしている。本当は家族と住んでいたが二年前に両親を亡くして俺は一人暮らしになってしまった。

幸い両親が遺してくれた保険金やらなにやらで、今のところ生活に不自由はない。多分、俺が死ぬまでは……

正面玄関のオートロックを解除して俺が中に入ると、自動ドアの閉まり際に一人の女が滑り込む様に入って来た。

こんな女、住人にいたっけか?

と一瞬思いはしたものの、詮索するのも面倒だった。俺がそのままエレベーターに乗ると続いて女も乗って来る。俺が目的の階を押すと女は最上階のボタンを押した。機械音が響きエレベーターはゆっくりと上昇し始める。

壁に寄り掛かったまま、俺は隣りの女をちらっと横目で見てみた。俯き加減のまま一点を見据え、その強張った表情は何かを覚悟している様にすら見える。

「さっきの女は一体……」

エレベーターを降りて、自室の扉にカギを差し込みながら俺は呟いた。

何か思い詰めた様な表情、そして行く先は最上階……

「まさか!!」

俺は非常階段から最上階へと駆け上がった。さらに、最上階を越えてその先へ……
途端に強い風が吹き付けて来た。


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