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『繋がりゆく想い……』
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『繋がりゆく想い……』-7

−−−三年後−−−

午後の陽射しは穏やかで、桜の花びらがちらりほらりと咲き始めている。
毎年この日にあたしはここに来る。あなたに会う為に……

「もう三年も経っちゃったんだね……」

まだ、あたしの中は祐樹でいっぱいだよ。半年しか暮らせなかったけど、たくさんの幸せをもらったんだよ祐樹から……

あたしね、やっと泣かないで祐樹と話せる様になったから、今日は少しだけ想い出話しようよ……昔のままの話し方で……



ねぇ、あたいがするコトって祐樹を驚かせてばかりだったのかな?あの日もそうだったよね……

今でも目を閉じると鮮明に浮かぶ、あなたの顔……

『お前、今なんて言ったんだ?』
『だからさ、あたいと結婚してって言ったんだけど……』

少しづつ、いろんな表情をあたいに見せてくれる様になったけど、あの時の顔は忘れられないな……

目をパチクリさせて、何か言いかけた口を慌てて閉じた。あたい、わかってたんだ……あの時、祐樹が何を言おうとしてたのか……
(わかってんのか?俺はもうすぐ……)
そう言うつもりだったんだよね?

あたい達の間でその言葉は禁句になった……

いつか訪れるその日まで、普通に……ただ普通に……それが二人の望みだったから……

きっと馬鹿にされて終わりなんだろうなって思ってた……けれど、あなたは

『お前がそうしたいなら、いいよ……』

そう言って恥ずかしそうに笑った。

書類を書くだけの結婚式。だけど、あたいは世界一幸せだって思ってたんだよ?そしてその日から、あたいは風見智子になった。

あなたの愛を全身に受けて、これ以上望むものなんてない程、幸せだった……

『子供が……できた?』
『うん!!』
『まさか、お前……』
『喜んでくれないの?』

初めて見た祐樹の戸惑う顔……そして、言ったよね。これ以上、重荷を背負わないでくれって……


吹き抜けた一陣の風があたしの髪を掻き乱す。それをかきあげながら、あたしは小さく笑った。


わかってないよ祐樹……

あたしの中に宿った新しい命……

あなたがくれた、最高の贈り物……

どんなに大変でも、重荷だなんて思う筈ないのに……

あなたの優しさが嬉しかった……そして、あなたが男である事が哀しかった。

『あたい、絶対産むから!!』
『後悔しないんだな?』

力強く頷くあたしに、あなたはもう何も言わなかった。あたしをそっと抱き締めて、掠れた声で呟く。

『ありがとう…智子…』

本当は聞こえてたけど、あたしは何も言わずに細くなってしまったあなたの身体を抱き締め返した。

後悔なんてする訳ないでしょ?だって、この子はあなたが生きていた証なんだから……


そして最期の日、あたいの手を握り締めながら祐樹は言ったよね。

『ありがとな智子。俺、幸せだったよ。』

って……。あたい、言葉に詰まっちゃって言えなかったけど、ホントはこう言いたかったんだ。

あたいの方こそ幸せだったよ……お疲れ様、ゆっくり休んでねって……

あはっ、やっぱダメだ。涙が出て来ちゃったよ……

「ママ……ここ、誰のお墓?」
「ここ?………ここはね、ママの一番大切な人が眠ってるの。あなたのパパが眠ってるのよ。」
「ふ〜ん、そうなんだぁ……」


あなたが最期まで望んでいたこと……
あたしが最期まで望んでいたこと……

その願いを込めてこの子に名付けた……

きっとあなたはいつもの様に優しい瞳のまま

『莫迦(ばか)、洒落でそんな名前付けんなよ。』

って言うのかな?


木桶を手にして、あたしは静かに立ち上がるとひとつ溜息をついて振り返った。

祐樹、また来るね。いつかこの子が大人になったら、あなたの素晴らしさをわかってくれると思う……

だって、あたし達の子供だもん……

「風が出て来たね。じゃあ帰ろうか……未来。」
「うん!ママ……」

早咲きの桜が風吹かれて舞っている……

無邪気に微笑みながら駆けて行くこの子を見つめて、あたしは呟いた。


ねぇ、未来……

あなたのこれからの人生が幸せであります様に……

素敵な人と巡り逢って、幸せな時間(とき)を過ごせます様に……

それが、あたしと祐樹の願いだから……


END


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