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『繋がりゆく想い……』
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『繋がりゆく想い……』-2

……キィ…キィ……

滅多に使われない事を物語る蝶番いの軋む音。屋上のドアは開け放たれていて、そして屋上に出た俺が目にしたのは今まさに手摺りを乗り越えようとしている女の姿だった。

「あんた、何やってんだ?」

俺の声に振り返ったソイツはこっちを見て叫ぶ。

「来ないで!!来たら、飛び降りるから!!」

間一髪で間に合った。とはいえ別にコイツが死のうと、どうしようと俺には関係ない……だけど、

「そっちに行く気もないし、止める気もないよ。だけど、どっか他所でやってくれ。住んでる俺は迷惑だ。警察とか報道とか来て騒がしくなるからな。」
「……なっ!!……」

俺はそう言って女に背を向けると出口へ歩き出す。

「あんたって最低!!こんな時、他に言うことあるんじゃないの!?」
「何か言って欲しいのか?」

女の怒りの矛先が俺に少しだけ向いた。くだらない……死ぬなとでも言って欲しいのか?それで気が済むなら言ってやるさ。

「どうせ男絡みなんだろ?やめとけよ。そんな理由で死ぬなんてくだらないだろ?」

俺はあてずっぽうに言ってみた。理由なんて、どうだっていい……

「くだらないって何よ!!あんたに智也の何がわかるってのよ!!」
「へー……当たりか。ま、別に智也なんたらのコトなんか知りたかないね俺は……」

そう言いながら俺は女の方へ再びゆっくりと歩き出す。

「来ないでったら!!ホントに飛び降りるわよ!」
「だから、止める気なんかないって言ってるだろ?飛びたきゃ好きにしろよ。時間を考えろよな、真夜中に大声出したくないから近くに来てるだけさ。」

俺は悪びれもしない顔をして、更に近付いて行く。

「あんたみたいな冷たい男、初めて見た。あたいをからかって楽しいワケ?」
「冷たい?そいつは些か心外だなぁ。こう見えても優しい男なんだぜ俺は……」

女のすぐ脇まで来た俺は手摺りに手を掛けながら、女の方を見る。

「なんなら証明してやろうか?」

女と同じ様に軽々と手摺りを乗り越えて俺は女の隣りに立った。軽く下を覗き込むと突風が前髪を掻き乱して行く。

「おー、結構高いなぁ……」
「あ、あんた……何考えてんのよ……」

突然の俺の行動に女は訳が分からないって顔をしていた。自分がもうすぐ死ぬってわかると恐怖感が麻痺するらしい……普段の俺ならこんな事絶対にしないだろう。何もかも、どうでもいいって気分がこんな行動を俺にさせているのかもしれない。

「ん?だからさ、あんたと一緒に死んであげようか?って言ってんの。優しいだろ?俺……」
「バ、バッカじゃないの!あんた頭おかしいよ!」

頭がおかしい……
違うな、このまま死んでもいいって思ってるのは本音なんだ。お前には、わからないだろうけど……

「こんな時に言う台詞じゃないけど、あんた結構かわいいぜ。それが数秒後には見るも無惨な死体に変わっちまうのかって思うと残念だな。」
「え?」
「あんた、飛び降り自殺の死体って見たことあるか?そりゃーヒデェもんだぜ。そのかわいい顔はぐちゃぐちゃになっちまうし、骨はバラバラ、内臓ブチまけて、おまけに……」
「や、やめてよ……」
「事故処理担当がゴミ拾いバサミであんたの肉片をバケツに集めて、最後に地面にこびりついた血を水流してデッキブラシでゴシゴシと……」
「やめてったら!!」

俺はそこで再び手摺りを乗り越えると、女に向かって手を延ばした。

「くだらねぇんだよ、当て付けで死ぬなんて……。世の中にはな、死にたくなくても死んじまう奴だっているんだぜ。」

俺のこの手を掴むも、払いのけるも、お前次第……

俺にしてやれるのはここまでだ。さぁ、どうする?

恐る恐る伸びてきた小さな手が俺の手を握り返し、女は小さく頷いた。


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