Penetration-2
「すいません。この娘、今日が初めてなもので…」
(なるほど…確かにこれだけマズけりゃそうだろう)
仁科は変に納得しながら彼女の気持ちを和らげてやろうと、
「でも、エライよ。バイトに精を出そうとするなんて、今どきの高校生にしては珍しいよ」
「…あ、あの……」
仁科の言葉に彼女は素早く反応した。口元をへの字に曲げて。明らかに不満気な顔だ。
「この娘、大学生なんですよ。私の姪っ子なんですがね」
「あ、そいつはすまない!知らなかったとはいえ…」
マスターの説明に仁科は慌てて女の子に頭を下げる。女の子は納得していないのか、表現がヘタなのか表情を変えなかった。マスターは話を断ち切ろうと、
「あの…ご注文は?」
仁科は慌ててメニューを見てから、
「じゃあ…アイス・カフェオレを…」
マスターは〈かしこまりました〉と言って、手慣れた手つきでコーヒーを煎れるとホット・ミルクと合わせ、氷冷器で冷やしてから銅製のカップに移した。
カップをソーサーに乗せると、マスターは女の子に目くばせをする。
「さ、お出しして」
マスターの言葉に、彼女は緊張した顔を浮かべてソーサーを手に持つと、仁科の前に置いた。
「お待たせ…しました」
よほど緊張しているのか手が小刻みに震えていた。
「ありがとう」
仁科はそう言ってカップを取り一口すすった。ミルクの甘さとコーヒー豆の苦味が相乗効果を与えている。コーヒーに必ず砂糖を入れる仁科でさえ、砂糖を入れる必要が無いと思わせる味だ。
さっきまで吹き出ていた汗がスッと引いた。
「大学って、どこの?」
仁科は愛想笑いを浮かべながら、先ほどのフォローに訊いた。
「〇〇大学の造型科です」
仁科は感嘆のため息をついた。そこは地元でも有名で、建築会社からすれば、引く手あまたの存在だった。
「じゃあ、建築を学びながらバイトを?」
仁科の問いかけに、彼女は頷くと、ポツリポツリと話し始めた。
「…こ、今年、就職なんです……だから、人に…逢って…話すのに馴れておこうと思って…」
「そうなんだ。ところで何故、建築に進もうと?」
仁科はなるべく話し易いように、努めて明るく接した。
しかし、彼女は視線を時々仁科に向けるだけで、あいかわらずうつ向いたままだった。
「あの…スペインの…サグラダ・ファミリア…」
「ああ、それなら知ってるよ。アントニオ・ガウディの設計で、100年以上経った今でも建築中なんだろう」
仁科の言葉に彼女は頷いた。