ちょっと怖い話-1
それは私が、家の近所にあるスーパーマーケットで、パートとして働いていた時のことです。
「鈴木さん、忙しいところ悪いんだけど、お願いしていいかな?」
「あっはい店長さん。なんでしょうか」
「向いにある倉庫のかたずけを手伝って欲しいんだけど」
「ええ良いですよ。解かりました」
スーパーマーケットの店長、50代くらいのそのおじさんに頼まれて、私は道路を挟んでお店の向かい側にある倉庫へと向いました。
倉庫と言っても所謂普通の民家です。元々は店長が住んでいた家だったとのことでしたが、新しく家を建て、移り住で依頼、借家として人に貸していた時期もあったそうですが、今ではすっかり古くなり、住む人も無く、壁や天井もボロボロだったりします。それでも簡単な資材置き場には丁度良いと、今では倉庫代わりになっていると言ったところでしょう。
そんな古い2階建ての農家。一階の部屋中には所狭しとダンボールが山の様に詰まれ、人の出入りもままなりません。
それでも私と店長さんは、ダンボールの隙間をくぐって広い居間にたどり着くと。
「空になってるダンボール箱を折りたたんで、表に停めてある軽トラックに載せて欲しいんだ」
「解かりました」
店長さんに言われるまま、私は部屋の隅の方にある小さいダンボールから順に、折りたたみ始めたのでした。
1時間くらい経ったでしょうか。店長がスーパーへと戻り、一人でダンボール片付けをしていた時です。
不と誰かに背中を叩かれた気がして振り向きました。が…… 誰も居ません。
「変ねぇ…… 気のせいかしら」
そう思って、気にぜず片付けを続けていると。
”トントン ”
確かに誰かが私の肩を叩きます。そして振り返っても誰もいません。
「きゃーー!」
わたしは怖くなって家を飛び出しました。
”ドシンッ!”
「ちょっと鈴木さん! 危ないじゃないの急に飛び出して来たりして!!」
「さっ佐藤さん! ちょっとも〜脅かさないでよ!!」
「脅かさないでよって…… 何のこと?」
「さっきわたしの背中、……叩いたでしょ!」
「はぁ? そんなことしてないって。それより何が有ったの、顔が真っ青よ」
「…………!」
わたしは丁度家の外で、片付けを手伝おうとやって来たのか、同僚の佐藤さんにぶつかると、倒れそうになりながらも、あたふたと、今起こった事を彼女に話たのでした。
実際、佐藤さんが私の背中など叩けるはずもなく、私はそんな事も解らなくなるほど、この時は取り乱していたのかもしれません。
「ばかねえ。幽霊なんて居るわけないでしょ! だいたいそんな物が本当に居るんなら、見てみたいわ」
実際わたしも幽霊なんて信じてはいません。案の定、佐藤さんもわたしの話を笑いながら聞いていましたが。
「そりゃぁこんな廃屋寸前の家だもの、幽霊でも出てくれなきゃ、退屈でしょうがないでしょうけどね。って言うか、あんたねえ怖い怖いと思っているから、何でも無い事が怖く感じたりもするのよ。鈴木さんって怖がりよね」
とかなんとか、馬鹿にするばかりで信じてはくれません。
「ちょっとぉ! ちゃかさないでよ! 本当に誰かに背中を叩かれたんだから」
「はいはい! そう言う事にしておきましょうか」
「だからー……」
「そんなことよりお惣菜のパック詰め、手伝ってよ! もうじき夕飯時期なんだから、お客さん、わんさか詰め掛けちゃうでしょ」
そんな訳で、この話はうやむやとなり、その日の片付けは一時中断となってしまいました。