永愛-6
「どうして…?」
洋子は顔を上げる。
俺は墓の前で目をつむり、手を合わせる。
「名前、考えてきたんだ。男だったら祐也。女だったら祐子。俺の名前から一文字取った。」
「ごめんね。」
洋子はその場で泣き崩れた。謝るのは俺の方だ。何も気付いてやれなかった。
近くの喫茶店に入った。
「コーヒーと…。」
「オレンジジュース。」
変わってないなと思った。話すことは大人ぶってるのに、コーヒーが飲めない。そういう所も好きだった。
「私、大学生の時、バイト先の店長と付き合ってたの。すごく好きだった。奥さんがいることは知ってたけど。でも…。」
生唾を飲み込む音が聞こえた。
「妊娠したの。彼が墮ろしてくれって。私も彼の負担になりたくなくて…。中絶の後、言われた。もう子供はできなくなるかもしれないって。」
洋子の目から涙が流れた。
「彼と別れて、あなたと付き合い始めてからも、ずっと罪悪感でいっぱいだった。私は人殺しだって。でも、あなたを好きになって、結婚できて本当に嬉しかった。」
「妊娠したって知った時、すぐにあなたに報告したかった。でも…流産するかもって思ったら怖くて言えなかった。中絶のことも知られたくなかった。嫌われたくなくて。」
「ダウン症って…。」
「自信がなかったの。本当は…産みたかった。」
俺は何もできない。彼女を責めることも、今更、謝ることも…。ただ会って分かった。俺は今も少しも変わらず、洋子を愛してる。俺達はもう一度やり直せるだろうか?
喫茶店を出て、彼女は言った。
「私、結婚するの!」
彼女の口は笑ってた。でも瞳の中には涙がたまってた。
「幸せになれよ…。」
彼女は笑顔で頷くと、背を向けて歩き出した。背中が震えていた。本当は駆け出して、抱きしめたかった。
帰りの電車に乗る。結婚するなんて、きっと嘘だ。どこかで、綾子達のことを見て知ってたんだろう…。
マンションに入ると、電気が消えていた。綾子達の荷物がない。
俺は走り出した。もう大切な人を失いたくない。
駅で、電車に乗ろうとする彼女を見つけた。
「綾子!優菜!」
「パパ!」
パパって呼んでくれたのは、初めてだ。
「帰ろう!」
三人で手を繋いで、家路を辿る。明日は晴れそうだ。
終わり