永愛-5
「いつでも遊びに来てください。こっちからも遊びに行きます!」
俺は言った。
マンションに戻ってくると、俺は浮き足立って、結婚の話ばかりをした。綾子はなぜか浮かない顔をしてる。
「洋子さんの…ことなんだけど。」
「えっ?」
綾子の口から、その名前を聞くとは思わなかった。
「私、部屋の片付けしてたら、見つけたの。でも、気付かないふりしてた。」
泣きそうな顔をして、引き出しから、何かを取り出す。
「これ…。」
病院の薬?袋には大塚産婦人科…。日付は彼女が出ていく数ヵ月前だ。
「この薬、ネットで調べたの…。子宮収縮を抑える薬だって…。妊娠中に…!」
綾子は泣いていた。
「…。」
洋子が妊娠…?
眠れない。綾子も起きてる気がした。だが、会話はない。
次の日、会社を休んで、大塚産婦人科に行った。話を聞けるかは分からない。でも、何もせずにはいられない。
先生に全てを話した。ここまで話す必要があるのかと言う位…。先生は洋子のカルテを持ってきて、口を開いた。
「確かに…洋子さんは妊娠してますね。」
「俺の子ですよね!?」
「でも、中絶してます。」
「…えっ?」
「洋子さんは、18才の時に中絶手術をして、子供ができにくい、もしくはできても流産、早産しやすい体になってるんです。」
「…。」
「それで、妊娠5ヶ月の時にした検査で、赤ちゃんがダウン症だと分かって…。」
聞くに耐えれなかった…。
重い足取りのまま、帰り道を歩く。公園のベンチに腰かける。
―何で言ってくれなかった?俺達、夫婦だろ…?―
ブランコで無邪気に遊ぶ子供達を見ながら、涙が溢れた。
マンションに着いた。…綾子に全てを話した。
彼女は俺より辛そうな顔をしてる。
「もうすぐ…命日なんだ。お墓に行ってみようと思う。岐阜に洋子のご先祖の墓があるから…そこにいるのかはわかんないけど…。」
布団の中で考える。俺と洋子の子供…。なぁ、お前はどんな顔してた?…俺、会いたいよ、お前に。ダウン症が何だよ?産まれて来れないことより辛いことなんてあるか?
なぁ、なんで…。
泣いた。
命日に、俺は岐阜に向かった。
悲しい位に快晴だった。この青い空をお前に見せてやりたかった。
墓までの長い道のりを歩く。お墓の前で、しゃがんでいる女性がいた。遠くからでも分かる。洋子…。俺が会いたくて会いたくて仕方なかった彼女が、今こうして、ここにいる。