永愛-2
「あなたは人を本気で好きになった事、ないでしょ?」
好きな人から言われるには、あまりに酷な言葉だった。
「斉藤くんって一人暮らしだよね?」
真夜中の電話。眠気も一気に飛んだ。
「今、一宮駅の近くにいるの。あなたの家から近い?」
泣いてるようにも、笑ってるようにも聞こえるその声。
「近いよ。」
きっと、彼女がいる所がどんなに離れてても、俺は近いと言っただろう。
「何かが足りないのよ、この部屋。」
部屋を見渡すと、彼女はいつもの様に、挑発的に言った。
「こんな時間に何やってたの?なんてありきたりな事あなたは聞かないでしょ?」
「…何かコンビニで買ってこようか?」
彼女は飲みたい気分なのか、と思った。
「変に気を使わないで。あなたの気が利かないところが好きなんだから。」
彼女はそんな調子で延々と話を続けた。
お酒も飲まず、テレビもつけず、俺達は朝になるまで喋っていた。
翌朝、一限から授業があると言って、彼女は颯爽と出ていった。
それから、一週間位経ったある日、ドアの前に真っ赤な目覚まし時計が置いてあった。
―あなたの部屋には色が足りない―
メモがついていた。
―この前、泊めてもらったお礼―
嬉しかった。毎朝、この目覚まし時計に起こしてもらおうと思った。
その期待はいい意味で外れたけど。
それから度々、彼女が泊まりにくるようになって、毎朝、彼女が起こしてくれたから。
「何かないの?」
「えっ?」
「好きとか愛してるとか…。」
初めて、キスをした夜だった。彼女の服にかけた手が止まる。
「愛してるよ。付き合ってください。」
「嫌よ。」
彼女の目は笑ってた。そして俺達は…。
ごめんね、あなたを試しただけなのよって彼女は1分後、笑いながらドアを開けるかもしれない。
でも、もう一生彼女はドアを開けないのかもしれない。
怖かった。こんなに怖いのは25年間初めてだった。目をつむっても寝れないのは分かってる。でも、開けた目に映る、彼女のいない風景はもっと怖かった。