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君想
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君想-1

君は覚えているかな。あの約束を。

いつか聞いてみたい。


「ユキ!」
呼ばれて私は振り返った。君は笑顔で片手を招く。
「おいで!」
駆け寄る私を両手で受けとめ、抱き締めてくれた。私は嬉しくて何度も君に頬擦り。くすぐったかったのか、君は身をよじって後ろ向きに倒れた。
「あはははっ!相変わらずだなユキは。」
そうやって爽やかに笑う。君の声、とっても久しぶり。
「ずっとかまってやれなくてごめんな。色々…あってさ。」
わさわさと頭を撫でるその手も、久々の感触。二人してごろんと野原に寝転がった。

草のにおい。やわらかな風。今日は天気もいい。そして、君が横にいる。
なんだかうとうと眠くなっちゃう。
私がふわふわいい気持ちになっていると、君がぽつりと呟いた。
「…俺さ、結婚するんだ。」
「……。」
「とってもいい子でさ、よく世話やいてもらってて。料理も上手なんだよ。」
嬉しそうに話す君。
「…だけど、ユキは一緒に行けないんだ。」
悲しそうに俯く君。
「…ごめん。」
瞳が揺れる。私は君にぴったり寄り添う。

大丈夫。いつかこんな時がくるってわかってた。いつまでも一緒にいられないって。
「ユキ…。」
君は私を抱き締めて、少し泣いた。
そうしてしばらくたったあと、君はニコッと微笑んで軽く頭を撫でた。


帰り道。空も町も夕日に染まって茜色。君と私の並んだ影が二つ、長く延びる。
いつもの散歩道。もう、二人っきりで歩くことはきっとない。君は遠くへいっちゃうんだ。私にはわかる。

君はさっきから黙り込んで遠くを見つめてる。

ずっと幼い頃から一緒にいた君と私。初めて会った時は緊張してなかなか打ち解けられなかった。よく喧嘩もしたっけ。でも次の日にはいつの間にか仲直りしていて走り回って遊んだよね。
君が大人になってからは女の子と一緒にいる所を見かけて私、ヤキモチやいちゃって。一日中すねてそっぽ向いてたりしてさ。だけど私が寂しい時や悲しい時は必ず君が側にいて、優しく撫でてくれた。ねぇ、君は覚えてるかな?
ふざけてじゃれあって軽く触れただけの、初めてのキス。


黄昏が紺碧に変わる頃、見慣れた家が見えてくる。だけど今日は見たことのない真っ赤な車が一台。その前で立ち止まる君。
くるっと振り返り、じっと私を見つめてた。

「…ユキ、元気でな。俺は遠くへ行くけれど…大丈夫。ちゃんと会いにくるからさ。な?
…だからそんな顔するな…。」
「………。」
「俺だって寂しいんだ。ずっと小さい時から一緒にいるお前と離れるなんて。でもな、お前の事考えて一緒には行かないことにしたんだよ。環境が変わると体にも影響が出るらしいから…。お前ももう年だしな…ユキ。心配なんだ。」

そうして私をふんわりと抱き上げた。目線が同じになる。真っ正面から見る君の瞳に映るのは、真っ白だった毛も灰色に染まり、くたびれた顔をした小さな犬。

「…いつまでも元気で、長生きするんだぞ。」
君は私の鼻先にキスをした。
そっと私を下ろした後、あの赤い車に君は乗り込む。
助手席には真っ白い服を着た女の人が座って微笑んでいた。
低いエンジン音。
ゆっくりと動き出す。
君はもう振り返らない。
車が遠ざかる…。

私は思わず走り出した。

まって!!
行かないで!!

…口に出して言えたなら…

お願い…!!
行かないで!!!

伝えただろうか?

切なくて苦しくて、どうしようもない。

ずっと秘めてきたこの想い。


あなたが、好き。


………
……
…そのあとユキはしばらくの間そこから動こうとしなかった。誰が迎えに来ても、車が去った方をじっと見つめて。


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