胸音-2
「斉木、東京の大学目指すんだって!」
クラスの男子が噂してた。東京…。 ここ、愛知からそんなに遠いわけじゃない。でも、卒業したら偶然にでも会えなくなることだけは分かった。
「相川はどうするの?」
「え?」
斉木くんのことをぼんやりと考えていたので、突然の問いかけにびっくりした。
出席番号が近いから、隣の席になった安藤くんからだった。話すのは、バレンタインデーぶりだ。
「進路調査の紙、今日までだろ?」
「私は…、名古屋外大が第一希望だよ。」
「そっか、相川、英語得意だもんな。」
「安藤くんは?」
「俺は就職組!」
それを機に、安藤くんと話すことが少しずつ増えていった…。
大学1年の夏…、一人暮らしを始めた私は布団で彼氏と寝ていた。
「もう…7時?」
彼が眠たそうに聞く。目覚まし時計がけたたましい音で鳴っている。
「うん…多分。行ってらっしゃい。」
横になったままで声をかける。
「お前は冷たいよな。」
「だって、私、講義3限からだもん。」
寝惚け眼に言う。彼はブツブツ言いながら、服を着ている。
「そうだ、同窓会の日、バイト休みとれた?」
「うん、とれたよ!」
「7時からだよな?俺、仕事終わってからだと遅れそうだから先行ってて。」
「どっちみち一緒には行かないよ。みんなにからかわれたら嫌じゃん?」
「お前は冷たいよ…。」
「安藤くんだって冷たくなったよ!最初の頃は…。」
「やばっ。遅刻しそう…じゃ、ね!」
「逃げたな。」
安藤くんと付き合い出したのは、大学に入ってから。卒業間近に携番を交換して、それから頻繁に遊ぶようになった。
恋してるわけじゃない。二回目に告られた時も、正直言って迷った。でも、こうして毎日楽しく過ごせてるし、私の出した答えは間違ってなかったと思う。
「うわっ、小宮の髪金髪。」
同窓会で隣の席に座った友達が小声で言う。安藤くんはまだ来ていない。