ツバメK-4
『……見て』
「ん」
『雨、止んだよ』
「……そろそろツバメが飛んでくる時期だね」
『そうね』
さっきまでの雨音は消え、元の静けさが辺りを包む。
二人は歩き出すものの、手は離さなかった。
二度と離れない、という意志が伝わってくるかのように、強く強く、握り合っていた。
『燕、今日から出勤でしょ?』
「うん」
あれから、あたしと燕の間に、更に一年の月日が流れました。
燕は専門学校を卒業し、就職試験もあっさりパスしたみたいです。
なんか、やればできるんだよね、燕のやつ。
ちなみに、どこに就職するのか、なぜか教えてくれません。
無事に入社するまで秘密だとか。
もう一緒に暮らしている間柄なのに、なんか悔しいけど。
相変わらず詮索しないあたしもあたしだけどね。
のろのろと着替え始める燕。
あまり見慣れないスーツ姿に少しずつ変貌する。
ちょっとドキドキする、かな。
あ、けっこう大事なこと思い出した。
『燕』
「ん?」
『……そこの引き出しあけて』
「……?」
燕は訝しげな顔をして、戸棚の引き出しを開けた。
『それ、していきなよ』
あたしが用意していたのは、こっそり買っておいたネクタイ。
何年か前、燕の就職先が決まったときに買ったんだけど。
「……椿芽」
『なによ、ボケッと口なんかあけて』
「ありがとう、愛してる」
ニコッとはにかんで燕は言った。
『……』
燕は今までそんなこと、なかなか言ってくれなかった。
本当に燕は変わってくれたんだ。
しみじみとしていると、燕は用意ができたらしく、玄関へと向かった。
慌てて追いかけて、見送りをする。
『似合ってるじゃん』
さり気なくネクタイを整えてあげる。
なんだか新婚気分。
「ありがと」
燕は靴を履くと、あたしの頬に優しくキスをする。
『……っ』
照れて顔が見れない。
「じゃあ、行ってきます」
『うん、行ってらっしゃい』
あたしも負けじと笑顔で見送った。
パタンとドアが閉まる。
燕と暮らし始めて、本当に毎日が楽しい。
仕事も充実していて、帰れば燕がいる生活。
燕はもう合コンには行ってないみたいだし、家事も何気にこなしてくれる。
本当に幸せ。
「……あ!あたしも準備しないと」
しばし物思いに耽っていると、自分も出勤なのに気が付いて、慌てて準備を始めた。