ツバメK-2
雨脚は一向に落ち着かない。
どうせここにいつまでもいたって一緒だ。
「うし!」
頬を両手で叩いて雨の中に再び飛び出した。
「!!」
飛び出した瞬間、ドン、とぶつかったような衝撃を受け、よろめいてしまった。
どうやら人にぶつかったらしい。しかも、女性だ。
「やべ……」
女性は倒れこんでいる。
俺と同じようにずぶ濡れ。しかも、倒れたのできっと服も汚れただろう。
慌てて手を差し延べる。
「すいません!!急いでいたもので!大丈夫ですか?」
女性は顔を上げない。
「……!」
気付いた。
嘘だろ。
まさか、こんなところに……
「つ……つば……」
『……ばか!』
その女性は、ありえないことに椿芽だった。
そりゃあ、伊達に何年も付き合ってるわけじゃないし。
ぶつかったときになんとなく気付いたさ。
でも、すぐに違うと割り切った。椿芽がこんなとこにいるわけないから。
でも椿芽だった。
「椿芽……なんで」
『……早く起こしてよ……服、びしょびしょ……』
「あ、うん」
椿芽の手を握り、引き寄せる。
椿芽に触ったのなんていつ振りのことか。
やっぱり椿芽は椿芽だった。
何百回も、何千回も握った手。
嬉しくて、抱き寄せたくなるのを堪える。
『あーあ、誰かのせいで泥まみれ……』
こんな皮肉も、やっぱり椿芽だ。
「なんで……ここにいるんだよ」
さっきまで雨宿りをしていた喫茶店の入口へと、椿芽を引き寄せる。
意外にもすんなりとついてきた。
『……』
「……なあ」
一刻も早く理由を聞きたかった。
『……あんたこそ、なんで走ってたのよ』
椿芽はキッと俺を睨む。
「……ご、合コンに遅刻しそうだから」
この状況に飲まれたくなくて、つい、くだらない嘘をついてみる。
『……』
椿芽は何かを言いたそうな堪えているかのような、複雑な顔をしている。
『……っき』
「ん?」
『嘘つき嘘つき嘘つき!』
そう叫ぶと、椿芽は俺の体を叩いた。
弱々しく。
「……痛いよ」
『……知ってるんだから!全部!』
椿芽は俺の体に寄り掛かると、声を殺して泣いた。
俺は肩を抱こうとして、それを必死に我慢する。