あなたの えがきかた-1
体中が渇きを覚える。
それはしっかりとした実感であり、感覚的な物では無い事を私は理解していた。
そんな時、私は決まって彼を求める。
求めると言っても、求めるだけで手には入らない。 彼を感じる事が出来るのはもっと後、この渇きが退き、自分の全ての細胞との会話が終わってから成される。 それが終わるまでの間、私は得も言われぬ渇きと戦いながら、彼を求めるのだ。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい―――――
私の中にそんな感情だけが沸き上がる。それは私の脳髄から足先まで全てを破壊し、理性と言う名の『個』を破壊し続ける。全ての細胞達が彼を渇望し、涙する。何もかもを無償で喰い破り、たちまち私は項垂れる事となる。
それはいつも、
恋と名付けるには残酷で、
愛と名付けるには優し過ぎた。
しかしそれ意外に名前を持たず、私を悩ませる事となるのだった。
そしてこの感情の波が退く時、いつも私は涙を流した。
ひどくあたたかい涙であった。
『あなたの えがきかた』
私は、今まで一番軽蔑してきた形で愛を告げる事にした。
いわゆる告白という物を、私は一番不本意なやり方でやろうと言うのだ。私も一応は女。確かに自分の納得した形で告げたいのだが、私はそうしないと心に決めたのだった。
特に意味はなかった。
特別挙げるとするならば、一番嫌いだから、だ。
彼は不思議な人なのだ。いや、変な人、と呼んでも良い。そんな人物に正攻法で当たるのは、少しずれている気がしたのだ。
だから私は、私が最も気にくわない方法で、彼に想いを伝える事にした。
◆
私は一度、なにくわぬ顔で彼に告白方法について聞いた事があった。誰であろうと、自分の夢に描いた告白方法があると思う。
私はそれを聞いたのだった。
「そうだね、手紙がいいな。恋文」
私の問いに対して、彼はそう言った。
「こう…なんというか、変わったのが良いね。一目見るだけで惹き付けられる様な」
私はこの時、案外ノーマルな事に驚いた。彼の事だからきっと、支離滅裂な事を言うと思っていたからだ。 しかし私の驚きも、次の言葉をもってして、納得へと変えられてしまう事になる。
「そうだな―絵が描いてあると良いね。手紙イッパイに絵が」
「それは―つまり?」
と、私は言った。
意味がわからなかった。
「手紙に、言葉じゃなくて概念が描いてあるんだ」
と、彼は言った。
やはり、意味はわからなかった。