『ロマナスの末裔』-4
「何?」
「麻美も母さんに似てきたな」
「当たり前じゃない!娘だもん」
「小さい頃はオレに似てたんだがな…」
「地黒はお父さんそっくりだよ。友達からは〈アフリカン〉って言われる」
「母さんに似てりゃ良かったな」
「全然。気にしてないよ。逆に嬉しいくらいかな…」
慎吾はそれには答えず、クルマを走らせて行った。
西の空は朱に染まり、反対の東の空は群青に包まれていた。
クルマは山道から一般道に入り、町中へと向かった。しばらくすれば自宅に到着する。
「お父さん、晩ご飯どうする?」
「今から作るのもおっくうだな。どっかで食べて行こうか」
「じゃあ、フォル〇スに行こう!」
「麻美はフォル〇スが好きだな」
クルマは大通り沿いにあるステーキ・ハウスの駐車場に停まった。
二人は店に入った。麻美は慎吾の腕を取りながら身を寄せている。遠目から見れば、歳の離れた仲の良い夫婦のようだった。
朝の静寂を破るように、慎吾の部屋にアラーム音が鳴り響く。
慎吾が目を覚まして起きようとすると、身体に重みがかかった。麻美の身体の重さだった。
(いつの間に?)
どうやら慎吾が寝た後に、麻美が部屋に入って来てベッドに潜り込んだようだ。麻美はいつものように慎吾に身体を絡ませていた。
慎吾は麻美を起こさないように、そっとベッドを出るとキッチンへと向かった。
30分後。美味しそうな匂いがキッチンから漂って、麻美の五感を刺激する。
「う…ん…」
起きた麻美は、寝ぼけたまま匂いのする方へ、トボトボと歩いて行く。
「ワッ!何これ」
ダイニング・テーブルにはトーストにベーコン・エッグ、コールスロー・サラダが並べられていた。
「起きたか」
使ったフライパンを水に浸しながら、慎吾が声をかける。
「どうしたの?朝からこんなに」
「たまには良いだろう。夏だからこそと思ってな」
慎吾は冷蔵庫からヨーグルトを取り出す。
朝から贅沢な朝食を二人は摂った。麻美は〈美味しい〉を連呼しながら顔をほころばせている。
晶子が亡くなってから二人の生活は一変した。〈生活〉のための家事が重くのしかかる。
掃除や洗濯は何とかこなせた。が、料理だけは別だった。
晶子が亡くなった直後、仕事にかまけて麻美の面倒をみれなかった慎吾は、よくコンビニの弁当やスーパーの惣菜で夕食を済ませていた。
その時、慎吾は訊いた。