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『異邦人』
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『異邦人』-1

鉛色の空から、じとじとと雨が降っている。
「これだから梅雨時は嫌なんだよなぁ……」
ふてくされた様に空を見上げ、光(ひかる)は呟いた。彼が雨を嫌う理由は単純明快、荷物と傘で両手が塞がるからだった。
「まぁ、天気にケチつけても仕方ないんだけどさ……」
独り言を言いながら重たい鞄を抱え、家への道を急ぐ。見慣れた街並み、代わり映えしない毎日、退屈だらけの日常にウンザリしている………そんなごく平凡な大学生だった。

いつもの角を曲がり、細い路地に差し掛かったところで、光はふと足を止めた。そこには一人の少女が蹲(うずくま)っていたのである。軒下に隠れる様にして帽子を深々と被り、両手で体を抱き締めて、じっとしていた。
(どうしたんだろ?一人なのかな?)
少女を見ながら、一旦は通り過ぎたものの、気になって引き返した光は、しばらく考えた後、少女の前でしゃがみ込んでそっと声をかけてみる。
「君、どうしたの?一人?」
光の声に反応して、少女はゆっくりと顔を上げた。光を見つめる淡いブルーの瞳……その、吸い込まれそうな独特の色に光は一瞬言葉を失う。
(あちゃー、外人かよ!まずったなぁ……日本語わかるのかな?)
そう考えたものの、放っておく訳にも行かず、なおも光は話しかけた。
「言葉わかる?一緒の人はいないの?」
少女からの返事はない、何かを訴える様に、ただただ見つめてくるだけだった。よく見ると、おそらくずっとそこにいたのであろう、少女の体は小刻みに震えている。
「やっぱダメか……しかし、この子の連れは何やってんだ?こんなトコに独りにして……」
辺りを見回しても人のいる気配は無い。大きな溜め息をつき、持っていた傘を少女に渡すと光は立ち上がった。
「ごめんな……俺には、こんな事しかできないんだ。早く迎えが来てくれるといいな……」
そう言って背を向けたとき、どこからともなく声が聞こえてきた。

《お腹減った……》

光は驚いて振り返り、少女を見る。
「今、君が喋ったのか?」
返事はない……少女は相変わらずじっと見ているだけだった。光はふっと息をついて首を振る。
「んな訳無いか……空耳だよな。」
再び歩き出そうとした光の頭の中に、さっきよりも大きな声が響く……そう、それは聞こえると言うよりも響くと言う感じだった。

《お腹減ったよぅ…》

空耳じゃない!!しかし、一体?困惑しつつも光は少女の方を向く。理屈はわからないが確かに声が聞こえた……いや、響いた。
「お腹が減ってるのかい?……っと、こっちの言う事はわからないみたいなんだよなぁ……じゃあ、こうやってっと……お腹……減ったの?」
光は、わざと大きなアクションで腹を摩(さす)って情けなさそうに俯(うつむい)き、そのあと顔を上げて少女を見る。すると、初めて少女の顔に表情が現れた。ほんの微(かす)かではあったが首を縦に動かす。
「お!通じた!……。そっかぁ……腹減ってるのか……。うーん、こんなトコに放っておく訳にもいかないし……仕方ないな、おいで……」
光が手招きすると少女は立ち上がり、そっと寄り添ってきた。少女を連れて歩き出そうとして、光は彼女が裸足である事に気付く。
「うわっ!!マジかよ!裸足じゃんか。おいおい………こうなったら……おりゃっ!!」
掛け声とともに少女を抱き抱え、光は走り出す。

それが、この不思議な少女との出会いだった。


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