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『異邦人』
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『異邦人』-3


「よいしょっと……」
少女を抱き抱えたまま、鍵を取り出すと光は扉を開けた。
「しっかし、軽い子だなぁ……っとそんな事言ってる場合じゃないな。」
光は少女を抱いたまま部屋に入り、畳の上にそっと降ろした。そのまま浴室に行き、洗面器に湯をたたえタオルを持って戻ってくると、ぬるま湯に浸したタオルで優しく少女の足を拭いていく。
「あーあ、傷だらけじゃん……。うわっ、血まで出てるし……痛い筈だよ、これじゃ……」
光は傷の手当てをして、包帯を巻く。立ち上がって毛布を取ると、そっと少女の肩に掛けた。
「あとは……コーヒーって訳にもいかないし、ココアかな?」
台所でココアを作り、部屋に戻ると少女は不思議そうに部屋を見回していた。
「小さな兎小屋にようこそ……異国のお嬢さん……って言ってもわかる訳ないか……」
光は、半ば自嘲的に呟くと目の前にカップを置く。少女はクンクンと匂いを嗅いで、そっと口をつけた。一瞬、驚いた顔をした後に美味しそうにココアを飲み始める。
「まさかココアを知らないって訳でもないだろうに、変わった子だな。」
光は、ちょんちょんと少女の頭を突っつき、帽子を取ったら?と言う仕草をする。小さく頷いて、少女は帽子を脱いだ。サラサラと輝く様な金色の髪の毛が流れる……と同時に光は目を見張った。なぜなら、少女の耳は今まで見た事ないぐらいに鋭っていたのだ。

「おい!どうなってんだ?これじゃまるで……」

そんな光の事など気にも止めない様に、ココアを飲み干して少女は満足げに微笑んだ。しばらく呆気に取られていたものの、少女が空腹だった事を思い出し光は再び台所に向かう。簡単なモノを作りながら、光は考え込んでいた。
(まさか、外人どころか人間じゃありませんでした……なんてオチじゃないだろうな。はっ!バッカじゃねえの俺は……ンな、おとぎ話じゃあるまいし……)
嘲る様に自分の考えを打ち消す。しかし、そう思いながらも光には2、3思い当たる節があった。
ひとつ目は見た目……あの鋭った耳……

ふたつ目は一瞬……ほんの一瞬ではあったが、心に直接話しかけてきたって事……

そしてみっつ目は、何て言ったらいいのだろう……その、小さいのだ……全てが……

最初は子供だと思っていたけど顔も体つきも、よく見ると成人女性の様だ。ただ、全体的に少しだけ小さい事を除けば……

「まるでエルフ?……ははっ!どうかしてるぜ俺……」
とりあえず、出来上がったチャーハンを光は彼女の前に置いた。案の定、スプーンを握ったまま匂いを嗅ぐ……やがて、一口食べると、さっきと同じ様な顔をして、一心不乱に食べ始めた。
「凄いな……よっぽど腹減ってたんだ……」
その余りにも気持ちのいいぐらいの食べっぷりに、光は驚きながらも微笑んでいた。
彼女の食べている姿を眺めていたら、突然手が止まり、皿の上にスプーンを乗せて皿ごとこっちに押してきた。よく見ると少し恥ずかしそうにしている。
「はははっ…気にしてたのかい?いいんだよ、全部食べて……」
笑いながら、光が皿を押し返すと彼女も微笑んで、再び食べ始めた。結局、綺麗に平らげて彼女は光に頭を下げる。
「はいはい、お粗末様でした。」
そう言って食器を片付けると光は戻ってきて座った。とりあえずはいいとして……この後どうしよう……。光はひとつ咳払いをすると自分を指して口を開いた。
「俺は光……ひ、か、る……わかるかな?」
じっと光を見つめていた彼女は、やがて口を開く。
「……ヒィ……カァ……ルゥ?……」
たどたどしくではあるが、彼女は光の名を呼んだ。
「そうだよ…ひかる……俺は……ひかる……」
「ヒィカァルゥ……ヒィカァルゥ……」
光は大きく頷いた後、指先を彼女に向けた。
「君の名前は?」
ゴクッと喉が鳴る。言い様のない緊張が光を包んでいた。彼女は息を整え、静かに喋る。
「%¥&$…ルーン……☆§◆」

ここに至って、光の疑問は今、確信に変わろうとしていた。今までに聞いた事のない言葉……確かに全ての言葉を知ってる訳ではないが、それでもどこの国の言葉とも違う気がした。辛うじて聞き取れたのは、ルーンと言う単語だった。
「…ルーン?…」
光が呟くと彼女は、ほんのりと頬を染めて微笑みながら頷いた。
「…ルーン……なんか、いい名前だね……君はルーンっていうんだ……」
名前を何度も呼ばれ、更に顔を赤らめながら上目づかいに彼女も光の名を呼んだ。
「ヒィカァル……ヒィカァル……」

これでやっと、お互いの名前を知る事ができた訳だ……ふぅっと光は息をついた。
(聞きたい事は山ほどある……あるんだけど、どうしたらいいんだ?)
そう……やっと名前がわかっただけ……
途方もない難関が目の前にある。大きく溜息をつき、光は肩をすくめた。


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