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『異邦人』
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『異邦人』-14

長いキス……時を惜しむ様に二人は唇を重ね続ける。なぜなら、このキスの終わりが、つかの間の出会いの終わりを告げるのだから。やがて、名残り惜し気に唇を放し、美幸は吐息を漏らした。
「すっ…ごい、キス……。まだ、頭が痺れてる……。ずるいわ、こんなに切なくさせるなんて……。」
光は何も答えない。そんな彼の髪を細い指が優しく、慈しむ様に撫でる。
「最後の願いが叶っちゃった。ありがとう光……。もう隠さない……本音を言えば帰りたくない……ずっと側にいたいの。でも、それはあってはならない事。だって私は………」
美幸はそこで言葉に詰まった。何かを言おうとする光を手で制し、震える息を整える。
「けど…けどね、ひょっとしたら私、幸せなのかもしれない……。死んでからも貴男にこんなに愛されてるってわかったから……。幸せな気持ちのまま、逝けるんだから……」
「……み……ゆき…」
「私は幸せよ……。もう、忘れて欲しいなんて言わない。時々思い出してくれればいいの。でも、今度は光の番……真剣に、この娘の想いに応えなさい……いいわね?」
「美幸…お前……」
「私に気兼ねなんかしないで自分の幸せを考えて……それが私の最後の望み……。叶えられるのは光なんだから……」
「………」

髪を撫でていた手が止まり、頭を抱えると美幸はついばむ様なキスをした。
「2年前の事、まだ有効かしら?私が二つお願いがあるって言ったら、光が……」
「遠慮すんなよ、らしくないぜ。」
軽く鼻を啜り光は言った。
「ふふっ……あのね、私が逝くまで抱いてて欲しいの……。それと、この娘が自分で目を覚ますまで起こさないで……。できるかどうかわからないけど、心の中で会えたらお礼が言いたいから。それと、最後に……」
一旦言葉を区切り、美幸はじっと光を見つめる。
「……幸せになってね光……」
「……ああ……」
光の返事に美幸は満足そうに微笑んだ。
「大好きよ光……愛してるわ……おやすみなさい……」
笑みを浮かべたまま、美幸はゆっくりと目を閉じる。声を掛けそうになるのを堪え、その寝顔を光はいつまでも見つめ続けていた。


どれくらい経ったのだろう、腕の中のルーンの瞼が微かに震える。そして、ゆっくりと目を開けたその瞳の色は淡いブルーだった。ルーンは何も言わずにただ光を見つめる。瞳に涙を溜めたまま……

「あいつ……逝っちまったんだな……」
こっくりとルーンは頷いた。光は頷き返し、ルーンの身体をそっとベッドの上に横たえる。
「最後に話、できたのか?」
「光の事、よろしくねって……」
「勝手な事言いやがって……」
ふんっと鼻を鳴らし、光は横を向く。
「だけど……ありがとうなルーン……」

横を向いたままの光の声は震えていた。無言でルーンは頷く、本当は何か声を掛けたかったけれど、その寂しげな背中に何も言えずにいた。


ゴフッ!ゴフッ!

突然聞こえた激しい咳き込みに驚いて光が振り返ると、掻き毟る様に胸を抑え苦悶の表情を浮かべるルーンの姿がそこにあった。
「ルーン!おいっどうした!しっかりしろよ!!」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」
額に脂汗が浮かび、身体を丸めてルーンは激しく喘いでいる。既に光の呼び掛けに反応することすらできない様子だった。もはや、一刻の猶予もない……

光が携帯を取り出し番号を押そうとすると

……ピンポーン……

間の抜けた音で呼び鈴が鳴った。
「誰だよ!この忙しい時に!!」
苛立ちを隠せず、ボヤきながら光は玄関へ向かう。

…ピンポーン、ピンポーン……

その苛立ちを増長させる様に呼び鈴が鳴る。荒々しく歩き、光は扉を開けた。
「すいませんが!!今、取り込み中なんで、後に……!?」

扉の向こうには一組の男女が立っていた。その一種異様とも思える出で立ちに思わず光は言葉を失う。

二人とも、三十なかばぐらいの歳であろうと思われるが、男性の方はスラリとしたスタイルに黒のスリーピースを着こなしていて、おまけにネクタイまで黒である。黒い帽子にサングラス……

まるで、どこかのSF小説の諜報員の様な格好であった。それはそれで身構える要因の一つではあったが、なによりも光を驚かせたのは隣りの女性の姿である。

ノースリーブに際どい程のスリットが入ったロングドレスに肘まであるレースの手袋、つばの広い帽子を被り隣りに合わせる様にサングラスを掛けていた。言うまでもなく、服の色は黒……


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