鈴の音-2
「ほら…」
チリンチリン…
お兄ちゃんが投げた鈴が、宙を舞いながら切なくなるから、私の胸が締め付けられる。
―やっぱり…覚えてない…
チリン…
私は鈴を受け止めると、それ以上鳴らないように強く握り締めた。
「色がはげたな、赤だったろ?」
お兄ちゃん、私が握り締めた鈴を指差して言った。
―え…?
「覚えて…る…?の…?」
「ん?ああ、夜店でだろ?何か、音とかお前っぽかったから狙ってくじ引いたからな」
「え?…」
―…狙った…
「うそっ、こんなのいらないって言ったよ」
「言った。けど、本当は最初からお前にやるつもりだったんだよ」
ドク…ンっ
苦しくなった。お兄ちゃんにとっては何でもない言葉…意味のない会話…些細な記憶…たったそれだけで私は息が出来ないくらい嬉しくなる。
「…今から言うことは…いやだったら聞き流して」
突然、聞いたこともないお兄ちゃんの真剣な声が聞こえた。
「…家族の縁を切ってもいい、お前の…鈴の嫌がることも怖がることもしない…」
ドクンッドクンッ…
すごく居心地が悪いのに、お兄ちゃんの声が私を締め付けて…じんじん体が熱い…
「…何…?」
やっと出た言葉、だけど、お兄ちゃんには届かない。
怖くてお兄ちゃんの顔が見れない。私はうつむいたまま手の中の鈴を痛いくらい握っていた。
「…好きだ…」
お兄ちゃんがテレビを消したから、しんとなる部屋に柔らかく響く。
―え…
「…妹なんて思えない。俺は鈴が好きだ…」
チリンチリン…
体の力が抜ける。鈴が床を転がり、私は弱々しくその場に座り込んだ。
「…大丈夫か?…ごめんな…傷つけるつもりはなかったけど…傷つくよな…」
お兄ちゃんがゆっくり私の前に座る。
―…違う…そうじゃなくて…
言いたいのに言葉が出ない。そのかわりに涙が溢れ、のどと鼻の奥がツンとして益々言葉が遠のいた。
「…ごめん…俺、高校出たら家出るし、それまで我慢して…何もしないし…もう何も言わないから…」
―違う…違うの…
私大きく首を振る。
チリン…
お兄ちゃんが鈴を拾い上げ、私の前にそっと差し出した。
「ーっ…」
好き
そう言ったつもりなのにやっぱり言葉は出てなくて、だから、抱きつかれたお兄ちゃんは驚いて固まってる。
「…鈴…?」
お兄ちゃんの心臓がすごい早さで、大きな音で、飛び出してきそうなくらい動いてる。
お兄ちゃんも緊張してる。そう思ったら私の緊張は一気に緩んだ。
―…何か…お兄ちゃんかわいい…
「鈴…?え?…」
くすくす笑った私にお兄ちゃんは困惑する。
「…私もお兄ちゃんが好き…ずっと、小さい時からずっと好きだったの…」
チリンチリン…
私を抱きしめたお兄ちゃんの手で揺れる鈴が、静かな部屋に鳴り響いて、私はその音に耳をすましながらお兄ちゃんの暖かな胸の中に抱かれていた。