君の羽根が軽すぎて―ソウヤ編―-1
あれから二週間ほど経ち、暗雲が立ちこめた。
いつも通りに夕方、音楽室を訪ねてみてもリコの姿はどこにもなかった。
椅子に座り、待ち続けていても、リコが来る気配は微塵にも感じられない。
風邪とかで休んでるのかな。
深く気にしないことにして、その日はおとなしく家に帰った。
けれど、次の日も、また次の日もリコは来なかった。
さすがに心配になってきたので、職員室に訪れて三年のリコの担任教師に聞いてみた。
「ああ、連絡が届いてなくてな。明日来なかったら直接家に訪ねようかと思っているんだ」
連絡が……?
そしてリコの家の場所を聞いて、僕は今、そこに向かって走っている。
もし万が一、大変な病気にかかっていたら?しかも一人暮らしなら、尚更…。
不穏な考えは吹き飛ばし、走り続けた。
たどり着いた先には、ただの、普通の小さい一軒家だった。
迷うことなくピンポンフックを鳴らした。やや遅いテンポのベルが鳴る。
三十秒近く経っても応答はない。
仕方なくドアをノックして、
「誰か、いませんかー」
と、元気なリコが飛び出てきてくれるはずだと期待しつつ、叫んだ。
しかし大した応答もなく、返ってくるのは沈黙だけ。
僕はその沈黙をかき消す様に、ゆっくりドアを開けた。
やはり見た目と同じで、中は狭い。
左手前・奥向きに一つずつドアがあり、もっと奥にはリビングが見える。
玄関に並べられている靴を見ると、運動靴が一組あるだけだった。
「誰か、いませんかー」
今度は抑え気味に叫ぶ。が、誰も出てこない。
意を決して、音を立てずにドアを閉めた。
靴を丁寧に脱ぎ、中に入る。
長く滞在する気はないので、片っ端からリコの部屋を探すことを考えた。
まずは手前のドアを軽く叩いてみる。
…反応がないので開けてみたら、肩の力が抜けた。
ちょっと狭く、大きい洗濯機が一台あるだけのお風呂場だった。
ドアを閉めて、次は隣のドアをノックした。
さすがに勝手に入り込んで、勝手にリビングに入ることは躊躇われる。だから、この扉の先がリコの部屋であって欲しい───そう願った時だった。
たしかに、小さく咳をする誰かの声が中から聴こえた。
「リコ?」
思わず呟いてしまう。
少し経ってから、蚊の羽音並みに小さく、
「……ソウ、ヤ…?」
弱々しい、リコの声が僕の耳に触れる。
「そう、僕だよ、リコ。ごめんね、勝手に家の中に入っちゃって、リコを起こしちゃったみたいで…」
本当にごめん。二度目の謝罪を述べるつもりでいた。