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冬がまだ色濃く残る三月の初旬。肌を刺す空気のなか、僕たちの高校生活を締め括る最後のイベントが執り行われた。とは言え、小、中、そして過去二年間に見てきたそれと何ら変わりはない。極端に言えば、ただ座る位置が変わっただけ。唯一違うとすれば、答辞を述べる少女──と呼ぶには彼女は少しばかり大人びている──の姿を見る目であろう。マイクを通して流れる彼女の声は、同年代のそれとはどこか質が異なっていた。凜、という一文字がここまで似合う女子高生もなかなかいないだろう。
用意された台詞を読み切り、彼女は校長の待つ壇上に上がる。年の割に精悍な顔立ちをした校長に答辞を手渡し、もとの席に戻る彼女の姿に僕は釘付けになる。毅然としたその姿は18歳という年齢以上の存在感を周囲に振り撒いていた。
あとは校長や保護者代表、毎年姿を見せない市長の代理など、代わり映えのない面子の祝辞が続く。例年は退屈にしか感じないそれにも、ある中堅クラスの私大に合格し、春からは一人暮しをすることも同時に決まっていた僕は過去にはないリアリティを感じた。自由であることの責任や、希望と背中合わせの不安が、僕には重かった。
感じたことといえばそのぐらいで、式は滞りなく進んだ。卒業生が退場する際には近くで何人かの女子が啜り泣く声が聞こえた。

体育館から校舎への渡り廊下を歩きながら、ぼんやりと外を眺める。窓から見えるグラウンドにはまだ薄く雪が斑状に残っていた。それはどこかグラウンドが眠っているように見え、春の遠さを感じた。
教室に戻ると、もう既に窓際の暖房に何人かが集まっていた。
ちなみに、僕たちの高校は良く言えば歴史のある学校で、僕たちが二年生のときにようやくエアコンが冷房だけ整備されていた。そのため、暖房は古臭いヒーター各教室に二基ずつ設置されていただけだった。その二つも男女で一つずつというのが暗黙の了解で、しかもクラスで存在感をアピールできる人物があたれるという、割とありがちな裏ルールがあった。
三年間を共に過ごした友人と三年間の思い出や進路について談笑しながら、もう一つのヒーターの方ヘと視線を移す。そこでは彼女もまた僕と同じ様に笑っていた。ただ、今の彼女は先程までとは違い、年齢相応の笑顔を浮かべている。このギャップも、僕が彼女に惹かれる要員の一つでもある。
その彼女までの距離はおそらく4〜5メートルほど。
─遠い。
彼女と僕との違いは明白だった。できるか、できないか。もちろん、どちらが僕かはおわかりだろう。
部活では控え、勉強も当初のトップ20から最終的にほぼ学年の真ん中をキープ。イマイチを絵に書いたような僕。
一方、彼女は部活は学業専念のために退部したものの、入学時からその学力を落とすことなく、教師陣からの信頼も厚い。彼女はいわゆる、才女なのだ。とりわけ容姿に優れているわけではない。友人の評価もまちまち。それでも、僕は彼女に惹かれていた。手をのばしたところで、届きはしないこともとうの昔にわかっていた。

そういう僕も、始めから彼女に思いを寄せていたわけではない。最初は、興味本位だった。二年生の秋頃、昼食の時間に、クラスの女子で誰が一番か、男子なら一生に一度は話し合うだろう。
当時の僕は、過去の恋愛の苦い経験を引き摺り、あまり本気ではなかった。ただ、周りを見渡して、目についたのが彼女だったのだ。
談笑している笑顔に、違和感を感じた。周囲の女子は気付いていないようだが、無理に笑っているのが僕にはわかる。
ほかの男友達がクラスのマドンナ的存在の名前を挙げる中、僕は彼女の名前を挙げた。四人のうち、僕に同意したのは二人。残り二人は近寄り難い、裏がありそう、という理由で否定した。
僕はその裏側を覗いてみたかった。彼女が、何を見て、何を感じているのか知りたかった。
些細な理由だと人は笑うかもしれないが僕はその瞬間から彼女に心を傾けていたと思う。

基本的に女子に対してはシャイボーイの姿勢を貫く僕が自分から彼女に話し掛けることはなかった。ただ、三年生でまた同じクラスになると、僕の胸は高鳴った。
転機が訪れたのは三年生の夏。部活を引退し、勉学に励む夏。しかし僕は他の皆ほど勉強には打ち込めなかった。一日13時間も勉強に集中できる人間の気が知れなかった。…とはいえ、彼女はそれに近い時間を消化していたようだ。


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