舞子 〜私の名前〜-3
そのセイちゃんが
甘ったるい女モノの香水と、汗の匂い。
着崩れた制服。
大きく開いたシャツの胸元には、花びらのようなキスマークがいくつも散ってて。
少し開いた、濡れた唇。
そして、その眼は…雄の眼をしていて、鋭く光っていた。
長い前髪の間から覗く眼に捕われて――
私は目が離せずに――
初めてセイちゃんに“男”を意識した。
お酒のせい?胸が高鳴る。
体の芯から熱くなる。
目の前にいるのは、今までのかわいい“弟”のセイちゃんじゃない。
“男の人”…なんだ。
「姉さん?」
はっとする。
覗き込むセイちゃんの顔を見ないように顔を背け、
「大丈夫だから」
ようやく、それだけ、言えた。
「そう…」
セイちゃんはそれだけ言うと、さっさとクツを脱いで、バスルームへと入って行った。
その後ろ姿を目で追う。
180センチはゆうに超えた身長。
広い肩幅。
いつの間に、こんなに大きくなってた?
いつの間に、あんなに男らしくなってた?
全然知らなかった、セイちゃんのコト。
全然知らなかった、こんな気持ち。
それから…毎日眠れない…
毎日、セイちゃんの帰りが遅いから。
どうして眠れないんだろ。
今までだってそうだったのに。
早く帰る日の方がめずらしいのに。
でも…セイちゃんが部屋に帰って来るのを確認するまで…
眠れない――
ねぇ、セイちゃん。今日も女の人を抱いてるの?
彼女を抱いてるの?
あの香水をつけた人を?
あの唇で口付けて、あの眼で見つめるの?
――私、何考えてるんだろ。
セイちゃんは弟なのに。
弟に彼女が出来るくらい、普通のコトじゃない。
眠れない…
ソファで眠るセイちゃん。
(セイちゃん、私、きっと今夜も眠れない…)
その眼に、私だけ映して欲しいのに。
その唇で、私の名前を呼んで欲しいのに。
どうして私は『姉さん』なんだろ。