舞子 〜私の名前〜-2
「ただいま」
いつも通りに玄関を開けて、いつも通りに、リビングのドアを開ける。
笑顔で…
いつも通りに出来ただろうか…
ん? いつもの『おかえり』が聞こえない…
「あれ…?おかあさん…いないのか…」
テーブルの上には書き置き。
少しホッとする。
だって、いつも通りなんてきっと出来ない。
きっとまた、涙が溢れてしまう。
ふと…
視界の隅に映る姿。
「あ…セイ…」
ソファに横たわる、その人。
愛しい、その人。
「寝てるの?」
伏せた長い睫毛。
きれいに結ばれた唇。
静かに近付いて見下ろす。
私は
あの夜が忘れられない。
1年前のあの夜が――
あの日は、夕方から大学の友達と、他校の人との合コンだった。
でも、なんか笑っちゃうくらい最悪で、早々に切り上げて女友達3人で飲み直した。
合コンの話で盛り上がって――
家に着いたのは、深夜1時を回ってた。
そっと、誰も起こさないように鍵を開け、玄関のドアを開く。
そして、そっとドアを閉めて、鍵をかけた。
明かりをつけて、しばらく座り込む。
家の中は心細いくらいに静かで、その静寂に耳がおかしくなりそうだった。
久しぶりのお酒。
頭が回らない。ぼんやりする。
そんな頭で、酔ってるんだろうな…って考える。
(もぉ今すぐ寝ちゃいたい…)
頭を抱えて丸くなりながら、そんなコト、考えてた時――
すごく静かに…
ぼんやりした私は全く気付かない程静かに、目の前のドアが開いた。
「舞子…」
頭を抱えていた私。
その声で顔を上げると、びっくりした顔のセイちゃんが立っていた。
「何やってんの?姉さん…気分悪い?」
「あ、いや、大丈夫…」
(私の聞き間違い?今、『舞子』って…)
心配そうに私を覗き込むセイちゃん。