ICHIZU…D-13
「アンタの努力が足りないんじゃない」
佳代はこの一言にカチンと来た。
(いくら母親でも言って良い事と悪い事がある!)
「努力してるよ!朝から晩まで。それでも足りないって言うの!」
娘の憤慨ぶりに加奈は〈少し言葉が足りなかったかな〉と思うと、手を休めて佳代を見据え、
「じゃあ、アドバイスしてあげる。アンタが〈努力してる〉と思ってるうちはまだまだね。それと…」
加奈は言葉を選ぶように言った。
「練習のための練習じゃなく試合のための練習をやりなさい」
「なんじゃ、そら。禅問答か!」
ソッポを向いてムクレる佳代。加奈はすでに笑顔に戻って、
「今のは私が高校卒業の時、監督から贈られた言葉よ…」
それきり会話は途絶えた。
バス・ルームで身体のあちこちを眺める佳代。また擦りキズが増えた。
「ふぅ…」
湯船に浸かると、試合の事を思い出していた。
「ダメだ……」
お湯を両手で顔にかける。その目は赤くなっていた。