ICHIZU…D-11
「あと一人だろーっ!さっさと決めろ!」
(うるせえ女だ…)
8番レフト佐々木。3ボール2ストライクまで粘られての6球目。内角のボールを思い切り叩かれる。鋭い打球が飛んだ。
(しまっ…!)
そう思った瞬間、ボールは長岡のグローブにおさまっていた。サード・ライナーだった。
長いイニングを守り終えて、選手達はベンチに駆けてくる。永井の前に整列すると、彼の言葉を待った。
永井は笑顔で出迎えた。
「5〜6点入れられるかと思ったが、よく3点で抑えたな。今度は追っかけるぞ」
「ハイッ!」
選手達がベンチに下がろうとした時、直也と佳代が呼び止められた。
「直也、青木と交代だ。澤田も湯田と交代しろ」
直也はしょうがないと頷いたが、佳代は代えられる理由が分からないと不満気な表情を見せる。永井はそれを察したのか、
「今日はベンチ入りを決める試合だろ。だから全員使うんだよ」
と言ってから、長岡を呼び寄せ、〈オマエも宇野と交代だ〉とつけ足した。
5回表。佳代は3塁の、直也は1塁のコーチャーとしてグランドへ駆けていった。
日陰で試合を眺めていた尚美は有理に、
「どうやら二人共代えられたみたいだよ…」
「そう…」
有理は少し残念そうな顔をすると尚美に、
「ナオちゃん、帰ろっか」
「……そだね」
二人は立ち上がると、グランドを後にした。
ー夕方ー
陽は傾き、黄金色の光が辺りを包む。昼間の暑さはやわらぎ、風が流れていた。佳代と直也は学校の駐輪場から校門へと歩いていた。
「完敗だったね…」
佳代がポツリと言う。直也はそれに頷くだけだ。
スコアこそ1対3と惜敗したように見えるが、内容は大敗だった。
打っては佳代のバント・ヒットのみ。守ってはホーム・ランを含めて10本のヒットを打たれるという散々たる結果となった。
直也はうなだれながらポツリと言った。