ＨＡＲＭＯＮＹ〜完結〜-1
１年後・・・
その試合は周りのギャラリーの会話を無くすほど白熱していた。県大会の３回戦、ベスト１６をかけた試合。常に県のベスト８にはいっている強豪相手に３Ｑ終わった時点で６５対６８。周りの予想を大きく裏切り１回戦敗退が当たり前だった櫻高校が伊勢工業を押していた。
「いいか、相手は７番と１１番でのコンビネーションが中心。ボックスワンで１１番のスリー、そして７番のインサイドプレーを止める。高さのある４番には無理してつかなくていい。ゴール下以外はかなり成功率が悪いからな。あとは・・・。」
伊勢工業の監督は予想外の櫻高校の強さに焦りを隠せないでいた。まさか３回戦でここまでせった試合をする事になるとは、試合開始前すら予測できなかっただろう。もちろん、周りのギャラリーも。
「だりー。足いてーし、疲れたし、もーいや。帰りたい。」
「うっさい柳太郎。黙ってろ。死ね。んで、話の続きだけど・・・。」
「そ、そこまでいうか・・・。」一方の櫻高校ベンチは伊勢工業のような切羽詰まった雰囲気ではなく、まるで練習試合のような軽い雰囲気だった。(柳太郎だけ)この試合、嘘のように絶好調の尚人。スリーが９本中７本の成功率。誰もが尚人の存在を脳裏に刻んだ。その尚人とは対照的に嘘のように絶不調の柳太郎。ミドルレンジの成功がなんと１０本中０。得点は２０点決めてるものの、その全てがレイアップとダンク。凄いところは、その全てがディフェンスを抜いて決めたこと。それは尚人と同じくその存在を広く知らしめただろう。
ビィィィィ!!
「両チーム、でてください!」
その声と同時に伊勢工業の物凄い応援が始まった。櫻高校は全員で丁度１２名なので応援にまわされる人がいない。だから応援できる人がいないのだ。その中でここまでの試合ができるのはやはり、二人の存在が大きいのだろう。そしてこれから、そのアウェイ状態で最後の戦いが始まった・・・。
４Ｑが始まって約６分。残り時間３分４２秒。８５対８７。伊勢工業リード。それから約１分１２秒間、両チームは膠着状態のまま迎えた２分３０秒。事件は起きた。
須賀浦尚人、ペネトレイトして、レイアップに行こうとした。それに対しディフェンスがブロックを試みる。
ピィィィィ!!
しかしそれはプッシングをとられた、だけでは終わらなかった。空中でのプッシングであったため尚人は態勢を崩した。そのせいで着地失敗。左足首を捻ってしまった。さらに、その上にプッシングしてしまったため自分まで態勢を崩した相手がのってしまった。
「ッッッ!!!」
その瞬間、激しい痛みが尚人を襲った。今までに感じたことが・・・ある痛み。靭帯をやってしまったときと限りなく近い。尚人に不安がよぎった。
<またやっちまったのか・・・>
タンカにのせられて医務室へ運ばれる尚人を、柳太郎は最後まで見ていた・・・。
それからの試合はとても見れたものではなかった。優秀なガードを無くし、攻めの起点がいなくなった櫻高校は、絶不調の柳太郎一人では踏ん張りきれなかった。終わってみれば１０６対９０。会場からは盛大な拍手が両チームにおくられた。