結界対者・第二章-1
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この部屋に引越しを決めた時に買った、新しい目覚まし時計は良く出来たもので、一度ベルが鳴った後に持ち主が目を覚まさないと、五分間隔で延々と鳴動を繰り返すという機能が付いている。
今朝、俺が目を覚ましたのは、おそらくそれが三回か四回繰り返された後。
まったく、初日から、よくも助けてくれたものだ。
もっとも、昨夜の俺の疲れ方ときたら普通では無かった。
ただでさえ転校初日だというのに、三馬鹿と呼ばれるガラの悪い三人組を危うく殺しかけて、間宮という妙な女に訳の解らない事を告げられた挙句に街中を連れ回されて、そしてあの正体不明の化け物と闘って……
これで疲れていないとしたら、間違いなく俺は超人か、その類だ。
超人……
とは言いつつも俺は、ある意味超人的な力を、実際に手に入れてしまった。
旋風桜…… 風を自在に繰り出せる力、とも言うべきか。
ベットに寝転んだまま、天井に右の掌をかざしてみると、昨日起こった様々な出来事が脳裏に蘇る。
俺は、この手で風を起こして、敵を倒した……
それは、幼い頃にテレビの中に見た、ヒーローの様であっただろうか。
憧れたヒーロー、力強く正義の為に戦ったりするヒーロー。
いや、俺は違う。
実際、間宮を助ける事に精一杯だっただけだ。
それに、今になって、あの化け物の息遣いや、諜戮の双眸がリアルに思い出されて、思わず気温に因らない寒気すら感じる。
そして、それは決して間違った感覚ではなく、現に一歩間違えばこの身が死に至っていたかもしれないのだ。
昨日のアレは、あの間宮でさえ、一時期は両腕を焼き潰され、動く事すらままならなかったのだから。
これから毎日、こんな事が続くのか……
だいたい、一応説明は聞いたけど、結界(けっかい)だの忌者(いまわのもの)だの訳の解らない事が多すぎる。
とりあえず、この街に不思議な力の源の結界ってのがあって、そいつを忌者っていう化け物が狙ってるのは解る。
だが、忌者って何だ?
何処から来るんだ?
やはり、よくあるゲームの様に、全部倒すとボスキャラが出てきたりするのだろうか。
それに、間宮は…… いや、間宮が命がけで、それを守って戦う理由って何だ?
使命? それとも責任?
まあ、考えても仕方がない、それは解ってる。
しかし俺は、訳も解らずに昨日の様な危険な目に遭うのはゴメンだ。
たとえ、それが、間宮が昨日語った「俺の母親が導いた」という理由に因るものであったとしても。
今日、間宮に会ったら、色々と訊かなくちゃな……
俺は、ベットから飛び起きると、シャワーを浴びる為にシャツを脱ぎ捨てた。