結界対者・第二章-9
「こら柊、いつアタシと仲良くしたってのよ!」
間宮の冷たい視線には、とりあえず気付かぬ振りを。
しかし次の瞬間、間宮の姉、サオリさんの口からは、意外な言葉が放たれた。
「あら、仲良く…… 戦ったじゃない? 昨日。ね? 旋風桜の、柊イクト君?」
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穏やかな笑顔のサオリさんの口から、突拍子もなく「戦い」と溢れた事に、思わず俺は戸惑ってしまっていた。
しかし、冷静に考えると、サオリさんは間宮の姉であり、当然「刻の鐘の対者の家系」の人間なのだから、それを口にしたとしても不自然ではない。
ただ、あまりにも、外見から感じるイメージと「戦い」という言葉とのギャップが大きすぎるのだ。
「あら、柊君、どうしたの?」
妙な間を生んでしまった俺に、サオリさんが首を傾げる。
「いえ、別に……」
「今、何か食事を用意するわね? 時間も時間だし。 積もる話は、その後にでも……」
「積もる…… 話ですか?」
「ええ、色々と訊きたい事があって、此方にいらっしゃったのではなくて? 旋風桜の対者殿?」
ニヤリと笑いながら、おどけた会釈を此方に向ける。
間宮とは違う、吸い込まれそうに黒くて大きな瞳……
顔自体も間宮にそれほど似てない、だがその仕草に「間宮の姉」である事をなんとなく実感した俺は、思わず吹きだす。
そして
「ええ、そうですね」
と頷くと、手元のコーヒーカップに指をかけた。
用意された「何か」は、間宮の熱望により、言うまでもなくカレーライスだった。
間宮と向かい合わせに座るテーブルの上に差し出された、白い大きめの皿に盛られたそれはあまりにも美味しく、同じ土俵に担ぎ出された学食のカレーライスに、思わず憐れみすら覚えてしまう。
「柊君、如何かしら?」
「ええ、とっても美味しいですよ!」
「当たり前の事を言うんじゃないわよっ! 美味しいに決まってるじゃない!」
考えてみれば、誰かと夕食の時間を、こんな風に過すのは久しぶり…… いや、もしかしたら初めてかもしれない。
前に暮らして居た場所での夕食は、何処となく居づらい雰囲気があって、いつだって俺は急いで食事を済ませると自分の部屋へ早々と部屋へと戻ってしまっていたし、高校に進学してからはバイトが無い日でも、バイト先のレストランに度々もぐり込んでは、賄いに呼ばれたりしていたりしていた。
「久しぶりですよ、こんな風に賑やかな夕食は」
雰囲気に流されたのか、思いがけず素直な言葉が口から漏れる。
しかし、それに対して、細かい詮索をされる事はなく、またそれが尚の事この場所の居心地の良さを膨らませていく。