結界対者・第二章-8
校門で鉢合わせてからすぐに、何も言わずに間宮は「ついてこい」と言わんばかりに歩き出した。
まあ、大体こうなる事は解っていたから、何も言わずに…… ただ「さっきの電話で、左耳が痛いぞ」と、前を行く背中に一言ぶつけてから歩いて付いていく。
学校の前から大通りへ、そして今朝のタバコ屋を通り過ぎて、大通りを暫く……
書店や床屋、雑貨屋が立ち並ぶ商店街然とした大通り沿いの歩道を、間宮は肩で風を切って、それに俺は連なる様に歩いて行く。
やがて、その店々の列びも終わりに差し掛かった頃、突然小さな店の前で間宮が立ち止まった。
喫茶店…… か?
そのありふれた、どこにでもある喫茶店の様な店には「コーヒーとお食事・タイムベル」という看板が掲げてあって、店のドアには「営業中」とまるっこい文字で書かれた札が吊してある。
「間宮…… ここは?」
「私の家」
家って……
「さあ、入って? それで話は…… アンタが売り上げに貢献してからね」
ニヤリと間宮。
別に構わないが、随分と意表を突かれたものだ。
「なあ、間宮。家族でやってるのか? ここ……」
「ん、お姉ちゃんがね。ウチは両親、居ないから」
ああ、例の、度々会話に出てくる「お姉ちゃん」か。
しかし、間宮も両親が居ないとはね……
間宮に連れられて、店のドアから入ると、そこにはメイド服とエプロンドレスに身を包んだ、まるで雑誌か何かのモデルの様に綺麗な女性が、ニッコリと微笑みながら立っていた。
「おかえりなさい…… あらセリ、お客さんなのね? お友達?」
ぺこりと軽く会釈をする、しかしそれを遮る様に間宮は
「ただいま、お姉ちゃん! ……で、どうだった? そのメイド服の効果はっ!」
と言葉を続けた。
おいおい、まともに紹介しろよ、このバカ。
「昼間はね、結構繁盛したのよ? セリが言ってた、メイド服効果かしらね、フフッ」
微笑みながら、何かの支度を、そして間もなくコーヒーカップの載ったトレーを片手に此方へと近付いて来る。
間宮はといえば
「つっ立ってないで座れば?」
と無愛想に言い放ち、自分も適当な席をみつけて、勢い良く腰を下ろした。
ちっ、こいつら、本当に姉妹かよ。
「はじめまして、セリの姉の間宮サオリと申します」
カップを差し出しながらの微笑みに釣られて
「はじめまして、間宮さんに仲良くして頂いている、柊イクトと申します」
本来なら確実に不得意分野であろう「つくり笑い」を思わず浮かべてしまう。