結界対者・第二章-7
「バカね、内容的に、ここじゃ話せないから言っているのよ。少しは空気読みなさいよね」
「……お前の断り方が悪い」
「まあ良いわ、放課後にウチに来て」
「お前の?」
「そう」
「ついでに、こんなカレーライスなんかより、お姉ちゃんのカレーライスの方が断然美味いって事も証明してあげるわよ」
正直、カレーライスは、どうでも良い。
第一、俺は注文してないし。
「放課後よ?わかった?」
「ああ、わかった」
とりあえず、返事を。
結局、訳の判らない事が、更に判らない展開になってしまった。
ただ、その一方で、間宮の家に直接行って、間宮の親か何かに直接質問をぶつけてしまった方が、てっとり早いかとも思う。
とりあえず、放課後…… か。
俺は、中身を飲み干した紙パックをクシャリと潰すと、席を立とうと椅子を背中で押す。
と、その前に気が付いて、財布の中から適当なレシートを取出し、自分の携帯の番号を書いて間宮に差し出した。
「いちいち探し回るのは面倒だからな、放課後に電話くれ」
―4―
校庭側の窓からの傾きかけた陽射しと、そわそわと騒々しい教室が、今日の終わりを告げている。
ここでの、俺の二日目の生活は、一日目のそれに順ずる事なく平穏に幕を下ろそうとしていた。
例の三馬鹿も何も、声すらかけてこなかったし。
もっともまた、帰り道に何かが起これば、その平穏は成立しなくなる訳だが、不思議と今日は何も起こらない気がして、俺の意識は自然に昼休みに間宮と交した約束の方向へと向いて行った。
間宮の家……
きっと、結界だの対者だの言っているんだから、何か神社の様な所なのだろうと勝手に想像してみる。
そして、そこで訊かなくてはいけない事の整理を、今のうちにと頭の中で始めてみる。
そんな事を暫く、椅子に腰を下ろしたままでボンヤリとしてると、ズボンのポケットの中で携帯が微かに震えた。
間宮から、だな?
ディスプレイには見慣れない番号、そしてそれをすぐに開いて、耳に当てると
「もしもし…… 」
と、心細さのみで構成されたような、トーンの低い声が耳に触れる。
「間宮…… か?」
それを口にした途端、その低限のトーンは急上昇を始め
「ななな何よっ! はい柊です、とか何とか言いなさいよっ! 間違えたかと思ったじゃない、まったくもう」
と、耳の奥に突き刺さった。
更に「校門に居るからっ」と追撃。
で、一方的にプチッと切れる。
まったく、なんだってんだ、一体。
とりあえず教室を出る。
そして校門へ……
アイツの顔を見たら、まず始めに何と文句を言ってやろうと考えながら。