結界対者・第二章-15
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それは、突然の出来事だった。
何の前触れもなく、目の前は闇に閉ざされ、それまで見えていた黒板に勢いよくチョークを突き立てるバカ本や、未だに顔と名前が一致しないクラスの連中が、一瞬で目の前から消えた。
そして、次の瞬間……
俺は、この場所に居た。
目の前には神社の様な社、幾つかの植え込みで囲まれた此処は、小さな公園の様な場所で、そこには何故か……
間宮も居た。
なんだこれ…… と口から出そうになって、次の瞬間に昨日のサオリさんの言葉を思い出した俺は、思わず息を飲む。
『忌者が来れば、結界に導かれる』
こういう事かよ……
確か昨日、そのサオリさんの言葉に、俺は「こちらの事情はオカマイナシか?」と応えた気がする。
だとしたら、それは的確、まさにその通りだ!
「ふん、来たわね」
鼻を鳴らしながら、間宮。
「……ここは?」
「焔の大石。結界の一つよ」
呟いた間宮は、何故か薄く笑みを浮かべていて、それはまるで忌者の来襲を待ち焦がれていたかの様にも見える。
「なあ、間宮」
「何?」
「嬉しい、のか?」
「そう見える?」
「……ああ」
間宮は答えず、少し黙った後に、静かに右手を胸前にかざした。
その手元に、あのピストル…… 赦しの短筒がボンヤリと幻の様に浮かびあがり、やがて実体になる。
「嬉しくはない……」
それを握りしめ、呟く。
「……?」
「……でも、感じるのよ」
「何を?」
「私が、存在する意味」
「なんだ、それ?」
「あのさ、この世界で、自分の生まれてきた意味を知ってるヤツって、何人居ると思う?」
「いや……」
「たぶん大抵の奴は知らないし、考えた事すらない奴だって中にはいると思うの。
でも私は、それを知ってる!
それは、この戦いの為!
この瞬間の為に私は……」
間宮が言い終えぬうちに、空は緋色に染まり、周囲の全てが張りつめた空気で満ちる。