結界対者・第二章-14
「なあ、間宮」
思わず、呼び止めてしまったのは
「お前、平気なのか?」
気になったから。
「何が、よ?」
足を止めた間宮が、いぶかしげに振り返る。
「いや、その…… もしかしたら、今日も戦ったりするかもしれない訳だろ?」
「ああ、そうね」
「また、この前みたいにヤバイ事になったりもするよな?」
「……?」
首を傾げ、すぐに何かに気付いた素振りを。
そして
「アンタ、もしかしてビビってんの?」
ニヤリと笑う。
「そんな事……」
応えかけて、止めた理由は、言うまでもない。
「当分は私が面倒みてあげるからさ? 何にも心配いらないわよ! すぐに慣れるから、ね?」
そういう問題じゃないと思うし、慣れたくもないのだが。
「まあ、深刻にならない事! ヤバくなったらアタシが時間を戻すし」
気が付くと、先ほどの不機嫌そうな面持ちは、俺の中に『かばい甲斐のある新人』を見付けた事で、些か上機嫌なものに変わっていた。
まともに考えれば、限りなく迷惑な話だが、正直今は間宮の言葉がありがたい。
結局、また戦う事になれば、二人で何とかするしかないんだろうから。
学校へ着くと間もなく、間宮は短く、
「じゃ!」
と手を振りながら、俺から離れて自分のクラスの方向へと向かっていった。
見張り…… か。
間宮がそうするのは、責任感とか使命感とか、そういった類に因るものなのだろうか。
ここへ転校してきた初日に、訳も解らずに力を使ってしまった俺を見張る為に、間宮は今朝も昨日の朝も俺を待っていた。
いや、それだけじゃない、昨日戦った時だってそうだ。
あんな化け物みたいな奴に、あのピストルの様な道具一つで悠然と向かって行ったりもした。
間宮は、どんな気持ちで戦っているんだろうな……
そんな事を考えながら席に着き、俺は、ぼんやりと始業のベルを待つ。
やがて、授業が始まって、集中する対象を得た俺は、心なしか今朝の重苦しい気持ちが少しだけ軽くなった事に気が付いた。
今は、あれほどウザく感じた担任のバカ本の授業。
しかしそれですら、何故か真摯に受ける事が出来てしまうのは、そのうち迫り来るであろう現実から目を背けたいが為に、俺が日常に飢えていてるからなのだろうか?
情けない……
いや、それでも結構だ、俺は普通が良い。
大体、あの忌者さえ来なければ、毎日が普通に終わる筈……
戦う必要も無いし、死にそうな目に逢うこともない。
だから忌者よ、当分来なくて良いぞ?
いや、頼むから永遠に来ないでくれっ!
「おーい、柊! 聞いているのかっ? 56ページからだ、早く読め!」
「……?」
バカ本の声で我に帰る。
授業に集中していた筈の俺は、気付かないうちにペンを握りしめながら願っていた。
しかしそれは、叶う事の無い願いで……
結局俺はその直後に、二度目の戦いを経験する羽目になってしまうのだった。