結界対者・第二章-11
「そうね、それともうひとつ……
力を封じた場所、要するに結界は、凄まじい量の霊力で固められているの。
これは、霊力を摂取して存在を維持している、妖怪やら精霊といった類の者達にとっての大好物で……」
ヨウカイ? セイレイ?
「あ、あの…… サオリさん?」
「ん? なあに?」
「その…… 妖怪や精霊って…… あの……」
「あら、信じられないって顔してるわね?」
当たり前だ。
「でも、実際に昨日見たでしょ?」
「えっ…… 」
脳裏をよぎる、昨日のあの、獣の様な化け物の姿。
「セリの話を聞くぶんには、おそらく昨日のそれは人狼(じんろう)ね」
「じんろう?」
「ええ、妖怪の一種。要するに、そういった者からも結界を護る、それが我々、対者の役目」
我々……
「あの、サオリさん」
「ん?」
「サオリさんも対者として、戦ったりするんですか?」
「昔…… ね」
うつ向きながら微笑む、サオリさんの長く細い指が、手元のカップに触れる。
俺は、それをボンヤリと眺めながら、我ながら厄介な事に首を突っ込んだものだと思う。
いや、突っ込んだのではなく、突っ込まされた……
まあいい、話の続きを。
「この子が…… セリが、もの心が付いて力の片鱗を見せ始めた頃迄は、私が刻の鐘の対者として役目を担っていたのよ。
柊君のお母さん、栞さんと供に戦った事もあるわ。
ただ、セリが成長するにつれ、私が持っていた力は、セリに吸い込寄せられるように私の中から消えて行って……
結局、今は対者としての力は、真似事が出来る程度しか残っていないの。
おそらく、結果的にセリが選ばれたって事なんでしょうね」
間宮が、選ばれた……
サオリさんの言葉を耳に、そのまま何気なく視線を間宮に移す。
すると、目の前の間宮は、いつのまにかテーブルに伏せて、微かな寝息でその背中を揺らしていた。
「昨日の疲れが残っているのね。時間を戻せば怪我は治るけど、怪我の記憶は消えないから……」
サオリさんの言葉に、再び昨日の記憶が蘇る。
そしてそれは俺の中に、もう一つの訊かなければならない事を思い出させた。
「あの…… 俺は、これから毎日、戦うんですか?」
今日は何もなかった、でも明日は「ある」かもしれない。
それが、使命だの運命だのと言うなら、別にやってやっても構わないさ。
しかし…… しかし、だ。
喜々として自ら危険に飛込む奴は、俺から言わせれば普通じゃない。
つまるところ、俺は普通の人間な訳で……