結界対者・第二章-10
「もし良かったら毎日でも、お寄りなさいな、ね?」
「いや、是非そうしたい所なんですがね、生憎そろそろバイトを始めなければいけない程の懐具合でして……」
恐縮しながら返事を。
するとサオリさんは、一瞬目を丸くした後に「あらあら」と右手を添えながらコロコロと笑い出す。
そして
「栞さんの息子さんから、お金を頂く訳にはいかないわ! ウフフッ、安心しなさい」
と、涙目笑顔で続けた。
その横で
「もう、お姉ちゃんはっ! せっかく、このバカをカネヅルにして、売り上げに貢献させようと思ったのにっ!」
と間宮が口をモグモグとやりながら、眉をしかめムクれて見せる。
まったく、コイツは、自分の裏表の無い性格と発言が、時と場合によって殺意を生む力がある事を解っているのかね。
まあ、とりあえずスルーだ、スルー。
「ところで、サオリさんは俺の母親と、どんな関係なんです?」
今、気になった事。
「うーん、戦友…… かな?」
「センユウ…… ですか?」
思わず訊き返したのは、意表を突かれた事以外の何者でもない。
「そう。フフッ、丁度良いわ、本題に入りましょうか」
「え…… ? ええ!」
本題……
そう切り出したサオリさんの横で間宮が、まるで手柄を取られたかの様に、先程よりも更に頬を膨らませる。
その膨れた頬の中身は「なによ、それなら昨日、ちゃんと説明したじゃない!」といった所だろうが、あの間宮の説明では、悪いが全然足りていない。
今はそんな間宮の膨れっ面はどうでも良くて、サオリさんによって明かされようとしている、俺の知りたかった全てが最優先事項なのだ。
「じゃあ、セリが何処までキチンと説明したか知らないけど、初めから話すわね?」
思わず息を飲む。
「今から五百年程昔、度重なる戦乱で疲弊したこの地に、一人の年老いた僧侶が現れたの。
その僧侶は行き倒れに近い状態だったらしくてね、住人達は僧侶を手厚く…… あ、これはセリから聞いたかしら?」
「ええ、偉いお坊さんがどうのこうの……」
「ふふっ、偉いお坊さん、ね」
微笑みながら横目で見る先で、むくれっ面の間宮が「ふん」と花を鳴らす。
「その偉いお坊さんはね、名を迥霍(ぎょうかく)といって、人々が助けてくれた事に物凄く感動してね?
自らの残り僅かな余生を、この土地の為に捧げたいと言い出したの」
なんだか、日本昔話の絵本のノリだな。
「それが、間宮の言ってた、四つの力で人々をピンチから救ったっていうアレですか?」
「そうね。当時は戦国時代の真っ只中だったでしょう? 当然、住人達の生活は常に戦の危機に晒されていて、そういった危機から、迥霍は幾度も住人を救ったらしいのね? ただ……」
「ただ?」
「それが後に、とんでもない厄災を招いてしまう事になるんだけど…… その説明は、今は後回しね?」
「あ、はい」
「そんな日々が過ぎて、やがて老いに因る自らの死期を悟った迥霍は、自らの死後もこの土地の住人達が安心して暮らせる様に、この土地に自分の中に宿る四つの力を封じ、それを護る者を住人の中から四人選んで、同じ様に力を一つづつ授けると言い出した」
「力を悪用されない為に…… ですね?」
確か、そう間宮が言ってた。