無名戦士-1
ボルトを後退させ、薬莢が右頬を掠める。
立ち込める淡い火薬と土埃の匂い。
数百メートル先の敵兵は悲鳴すら聞こえなかった。
遠くMG42のミシン音が微かな風に乗って聞こえる。
あんなもの、音と労力の無駄遣い以外の何物でもない。瓦礫と死体、恐怖と臭気が充満したベルリンでも、俺はモーゼル一丁であれの数倍の働きをしているはずだ。
思えばそうだ。
もう何年も何十年も前だったか、まだ19で初陣を飾ったソンム河のほとり以来の付き合いだ。
それが終わって今度は、ワルシャワ、パリ、モスクワ、ベルリン…
長らく戦ってきた。
だが、俺が初陣を飾ったあの戦いですら19歳だ。
今、俺が死ねばこの次を護るのはユーゲント。
14、15、16歳。
長らく戦っている間に戦争は様変わりした。
空も土も轟音で満ちた。
兵隊は、日がたつにつれて若くなった。
14歳。初老に手の届く歳になった俺にとっては孫みたいなもんだ。
四方を囲まれた陸の孤島ベルリンで、生き残るすべなどありはしない。
それならば、最期の戦いは、未来のために戦おうか。
ベルリンは廃墟でも、希望までは壊されん。
長い戦いの最期、無名戦士にしてはカッコイイ死に様だろう。
俺は再び銃をかまえると、身を乗り出したソ連兵に狙いを定めた。
完