飃の啼く…第6章-2
「サクラ」
しばらくして、飃が口を開いた。
「ん?」
「アノ娘ハ、何者ダ?」
総毛立った。
「茜は…茜は、高校に入った時からの友達だよ…ねぇ、茜が貴方に何かしたって言うの?何か良くないものがついてるの?」
信じられない思いで問う。飃はしばらく黙った後…
「イヤ……」
でも確かに、茜が来てから飃の様子は変だったけど…。
「イヤ、気ノセイ」
「そう…なら、良い、けど…」
何だか不安だ。また別の時のように、虫に操られているのだろうか。
「…本当に気のせい?」
もう一度聞いてみる。
「気ノセイ。」
う〜ん…この状態の飃からは詳しいことを聞くのは無理だなあ…。
考え込んでいると、彼が買い物袋の中に鼻を突っ込んで、今日の夕飯用の油揚げを漁っていた。
「ああ〜っ!こらぁっ!!」
びくっと身をすくめる。誇り高き狗族はどこ行ったのよ…間抜けなのはわかってるけど、
「もう!犬なんだから!」
だって、こう言う以外に悪態が思いつかない。仕方無しにその日の味噌汁の具は大根だけ。ちぇっ、やっぱりおいしくない。せっかく特売品でお得だったのに。ぶつぶつ。
そういえば、飃は狼のはずなのになんで油揚げが好きなんだろう。どう見ても…狼…よね?普通油揚げが好きなのは狐だと思ってたけど。そんなことを思いながら、さっさと夕飯を済ませた。
お風呂に入っている間、何とか打開策を考えようとした。一時的に戻らなくなっただけかもしれないけど、このまま戻らなかったら大変だ。戦いなんてとても出来ない。
「颪さんに聞いてみようかなあ・・・」
お風呂から出ると、毛むくじゃらの塊がベッドの上にのっている。丸まってぐっすり眠って…私は、さっきの仕返しとばかりに「わっ!」
と抱きついた。あわてて起きて体を起こすと思いきや、
「なんだ、おきてるんじゃない。」
「オキテイル。」
ちぇ。まあいいや。それにしても、この毛皮は極上品だ。
「もふもふ〜…わきゃ」
飃にまんまとマウントポジションを奪われてしまった。ずっしりと、身体が重い。
「どいてよ飃ぃ…」
無言。
「飃?」
「シタイ」
死体?肢体?姿態?・・・まさか
「…嘘でしょ。」
尻尾を振っている。嘘じゃない。
「あのー…そこだけは一線を越えたくないんだけど…」
丁重にお断りする。返事は無い。犬の脳には「一線を越えたくない」は通じないのか。
「…だめ。っていったら?」
まだ尻尾を振ってる。冷や汗。本気で冷や汗かいてる、私。
唐突に、飃が私を押さえ込む。針金のような爪が肌を引っかいて、思わず叫び声をあげる。私も負けじと引っかく。