甘辛ニーズ-6
その後、期待はしていなかったけど誰も来てくれなくて、ずっと屋上で寝っ転がっていました。
昼の時間になって、もう帰ろうかと思って立ち上がったその時。
扉の向こうから誰かが来そうな気配がしたので、つい壁に隠れてしまいました。
今思うとすごいです。ニュータイプか!?なーんて。
で、扉がバーン!って開いて、ちらっと見てみると、ヤンキーっぽい二人の男子と弱そうな一人の男子が来たんです。
あ、あのひ弱な男の子カッコいい…いや、可愛い…かな?どっちだろう……とか明らか場違いなことを考えていたら、急にヤンキーの一人がひ弱くんを殴ったんです。ちょっぴりビビりました。
『てめー見てるとムカつくんだよ』
…とか、どう考えても理不尽な台詞ばかり吐いてました。漫画の様な不良って本当にいるんだなって、感心しました。
そしてヤンキーが二人でひ弱くんをボッコボコにしてました。
さすがに見るに堪えられなくなったので、私は飛び出しました。
『へえ。今時のヤンキーって、せこいんですね』
『なんだ!オメーは!?』
『%#¥℃*@¢#!』
そのあまりにも意味不明な奇声に対して、久々に吹き出してしまいました。
『ぷぷっ…あは、あはははははははは!』
だって、仕様がないですよね?本っ当に意味がわからなかったんですから。
『…っに笑ってんだ!』
怒鳴り散らされても、あまり怖くありませんでした。
この人達なら…と思い、ポケットからあるモノを取り出して、言いました。
『…やるんですか?』
ひっ…というヤンキーの小声が聴こえて、更に続けました。
『実は私、暗殺術(サブミッション)…中国拳法…合気道…etc…いろんな武術を体得してるんですよ。間違えて殺しちゃうかもしれませんが、それでも…やるんですか?』
そう言い放つとヤンキー二人組は、一目散に逃げていきました。
『あはははっ、あはははははははははは!!』
あんなの、嘘なのに。
暗殺術なんて映画の中でしか見たことないのに。
私よりも、あの二人組はバカで、本当におもしろくて。
…やっぱり笑ってしまいました。
[笑う]この行為がこんなに気持ちの良いことだったなんて。その時になって初めて知りました。
『…あ…あの……』
『ははははは、あははははっ…はい?』
そういや、この子を忘れて…。
『あ、ありがとうございました』
『………!』
この日は、学習することが多すぎた。
『名前はなんて言うんですか?』
『…佐々見、将太…です』
『将太くん………ショウちゃんって呼んでも、いいでしょうか?』
『あっ、はい』
『次は私ですね。名前は……ふふ、そんなにびくびくしなくても大丈夫ですよ。さっきの全部、嘘ですから』
『いや、ち、ちが…』
ショウちゃんの視線の先には…
『…あ、これ…ただの折り畳み式ナイフですから、お気になさらずに』
『は、はい……』
『……〜〜何か気に入りません、その喋り方。もーちょっと男らしくなりませんか?』
『え…そう言われても…』
…まあ当たり前ですね。いきなりは無理に決まってます。
『…ふう…私は秀麻凪です。よろしくお願いしますね』
『はい、秀麻…さん』
でも……何かが切れました。