届かない想い-2
そして、秋の終わり。彼はある日を境にして、花のもとへ、バッタリと来なくなった。彼女は虚ろな視線で、大空を見上げる。ヒラヒラと舞い落ちる枯れ葉の中。花は幾度も彼の笑顔を、空に描いた。自分に笑いかけてくれた、あの柔らかいまなざしを…。心配そうに自分を気遣ってくれたあの優しいまなざしを…。
そして花は懸命に咲き続けた。しわくちゃになった花びらを精一杯広げ、くたびれた頭を持ち上げ…。花は必死に彼をを待ち続けた。
しかし、いくら待っても彼は現れなかった。
ある冬の朝。花は散った。柔らかな、日の光に包まれて、ゆっくり…ヒラヒラと。
彼女は美を競い合っていた、他の花々よりも美しかった。春の舞い落ちる桜、夏の照りつける太陽、秋の色どられた木の葉……どんなものよりも彼女は美しかった。
もうろうとした意識の中…囁く声さえ、今の彼女には出せない。気づけば、一粒の雫が花びらの上で光っている。それが朝露なのか涙なのか…彼女自身にも分からなかった。
ふと、花は空を見上げる。………そこで彼女は奇跡を見た。光る雫は……彼女の涙でも、朝露でもない、彼の落とした涙だったのだ。
誰かに踏みつぶされないよう、彼は一年中彼女を守り続けてきたのだ。彼女の為にずっとここに通いつめてくれていたのだ。
柔らかい日ざしの中。光り輝く雫の中。彼女は深い眠りにつく。しわしわの花びらは、またた少しだけ、ピンク色に染まっていた。