投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 43 飃(つむじ)の啼く…… 45 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第5章-9

+++++++++


そのころ、とあるホテルの一室で、飃は服を着たまま横になっていた。ホテルに着くなり、大いびきをかいて眠りだしたのだ。

「本当にこいつが御方に盾つこうってんだから、可笑しいな…」

美貌の女狐は飃の上にまたがって、鋭くとがった短剣をかざしていた。

すると、ホテルの係員の制止を振り切って、やってくる足音があるではないか。

「ちいぃ、思ったより稼げなかったか…!」

しかし、時間は十分ある。この一突きでこいつらは終わりだ。

そして、一気に短剣を振り下ろした。


「な…!?」

男の身体を貫くはずの短剣が、手ごたえもなく、上着のしたの何かに吸い込まれる。そのまま、短剣を握った手の半分までもが吸い込まれてしまった。

「な・・・にぃ!?」

「―残念だったな。都の女狐。」

飃の目は、依然と同じ鋭さのまま、目の前の裏切り者を見据えていた。

「貴様…起きて…!」

「お前の腕は、己の腹に仕込んでおいた盾の中だ。」

飃は上着を脱ぎ捨てて、腹に巻いてあった盾と、そこに吸い込まれている女の腕ごと手に取った。

「きいぃ!」
吸い込まれまいとして、狐は激しく抵抗する。しかし、その腕は半分以上失われて居た。

そのとき、ドアが勢い良く開いた。


+++++++++


「さくら!」

返事もなしに、私は一歩踏み出した。今まさに、北斗に吸い込まれそうになっている自分の腕を、噛み切ろうともがいている狐に向かって。

しかし・・・

あと少しというところで、そいつは両腕を噛み千切り、煙と共に姿を消した。

「小癪な犬ども!次は絶対に殺してやるよ…!」

獲物を捕らえ損ねて壁に深々と突き刺さる九重と、この言葉を残して。


あとは、抵抗を失って闇の奥へと吸い込まれていく血まみれの腕と、残された二人の沈黙だけ…

「あの…」

それに、ドアの外に立つホテルの係員。

「まだあと4時間ありますけど。」


……じゃあせっかくだからと、私たちはそのまま部屋に居座った。なんとも…ラブホ的(ほかに形容する言葉が無いので仕方ない)だ。ピンクと紫の壁紙。玩具の自動販売機や、サイドテーブルのゴム。

そう、部屋に興味をそそられた振りをしていれば、少なくとも、ちょっとだけは沈黙が苦ではなくなる。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 43 飃(つむじ)の啼く…… 45 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前