飃の啼く…第5章-11
「飃?」
「なんだ?さくら…」
「ぎゅって、して?」
まだ残る酒の匂い。今まで知らなかった飃の匂いが、私を包んだ。暖かい腕の中で、いつむどおりの安心感に包まれる。こんなに優しく抱きしめられると、そのまま飃の中に吸い込まれてしまいそう…。
その時…
「あぁ〜ん…」
「!?」
ベッドの上にあったテレビのリモコンを、私が間違えて押してしまったために、有料チャンネルがついた。映し出されたのは、「白衣の天使と医者」のシチュエーション。
「あわわ…」
私はあわてて消そうとする。だけど、私のあわてっぷり以上に…
「うわっ!?な、ななななななんだこれは!?」
顔を真っ赤にして飃が言う。まあ、数ヶ月前まで山の中にいた飃には縁が無い代物だとはおもうけど…
「AVだよぉ、何もそんなにあわてなくても…」
「し、ししし、しかし…」
目はテレビからそらしているものの、耳がぴくぴく動いて音声をしっかり拾っているのが解る。
面白い。
「こ、こんなものを人に見せるなど…」
うつむいて口ごもる。
「なぁに?じゃあ消す?消せばいいんでしょ?」
言葉につまる。興味があるのは明白だ。
テレビの中では、看護婦が医者を「虐めてる」最中。
にやり。
私は飃を押し倒して、その上にのった。
「興味があるくせに。」
「なっ…何を言う!」
「じゃあ自分で消したら?」
自分でも意地悪だと思う。飃はテレビは愚か、電化製品の扱いには全く慣れてない。
「あぁ、消すとも!その棒をかせ!」
リモコンを渡す。数秒間にらめっこした後…えい。と押したボタンは、チャンネルの変更ボタンで、次に映し出されたのは森の中での野外プレイのシーン。
「!!」
私は笑いをこらえるのに必死だ。自分でリモコンを操作するので、否が応にもテレビを向き合わなくてはならない飃の、横顔が真っ赤だった。
「こ、こんな事を…」
「人間は、するのよ〜。」
もう飃はテレビに釘付けだ。私だって恥ずかしい。こんなものを見たのは初めてだし。でも、それより飃のほうがもっと面白い。
「興味、あるんでしょ。」
はっと気づいて、あわててテレビから目をそらす。
「いや…だが、お前はあんな…望むまい?な?」
にやり笑いが広がってしまう。
「いやぁ?どーかなー?」
完全に私が優位に立っているので、悔しそうに眉をしかめる。リモコンを私に返して、ベッドに突っ伏してしまった。
私はチャンネルをそのままにして、飃の上にかがみこんだ。
「H。」
「む…異国の言葉は、わからん。」
「そういうのは、聞いてからしちゃ駄目なの。」
顔をこっちに向ける。まだ赤い。
「なんだ?そういうことって。」
目でテレビを指す。