年上の事情。‐3-2
「上司の顔を見て叫ぶヤツがいるか!」
「‥おはようございます」
と、立花くんと祝さん。
「おはようございます、片山さん!お久しぶりです」
と、香ちゃん。
「おいおい、俺には?」と部長が言っている。いつもだったらそこでつっこみをいれるのはあたしだろう。
「相変わらず元気そうだな、永瀬」
部長の隣にいる男はそう言って、今度はあたしを見た。
「‥ひさしぶりだな、五十嵐。元気か?」
心配そうな顔をしながら香ちゃんと部長があたしを見ているのを感じる。
それもそうだろう。久しぶりにあたしに微笑みかけている男は、あたしの昔の男だからである。
「おはようございます」
あたしはその男に深々と頭をさげた。
「‥鳴海くん、呼んできます」
あたしは男の目を見れないまま、部長にそう告げて外へ出た。
正確に言うと、逃げたが正しいだろう。
まだドキドキしている。
どうして片山がいたのだろう。この会社の人間だからいてもおかしくはないのだが。
片山が支社へ異動してから1年半だ。
そして、あたし達が別れてからも1年半――。
吹っ切れたはずなのに、心臓はドキドキしている。急に現れて驚いて、のドキドキではない。
苦しくて、その場に泣き崩れそうだった。
休憩室に入ると鳴海くんを見つけた。大きな窓から外を眺めていた。
「鳴海くん」
あたしは後ろから声をかけた。
「なんか‥恥ずかしいです。五十嵐さん達知ってたんですね」
鳴海くんはまた真っ赤になっている。
「すごく嬉しかったんですけど、なんかまだ誰かと付き合うって事考えられなくて‥」
「うん、立花くんから聞いた。昔、なんかあったみたいね」
「えっ‥あのおしゃべり」
鳴海くんはさらに顔を赤くし、手で顔を仰いだ。
その姿にまたしてもかわいいと思ってしまう。