『本当の気持ち…』-2
「だ…だって、お前いつも俺の前で彼氏の話するし、てっきり男として見てないって思ってたぜ?大学受験の時だって、『あーあ、また4年も一緒なの?』って……」
ベッドから体を起こし、先を続ける紗雪の言葉は更に貴晃を驚かせた。
「当然よ……本命の大学の試験なんて受けてないもん。せめて、あと4年間……一緒にいたかったから……」
二の句が継げないとはこの事だろうか?
ただ、あんぐりと口を開けたまま貴晃は呆然と紗雪を見つめていた。
「気にしないで……酔っ払いの戯言(たわごと)よ。忘れて、貴ちゃん……」
本音を語ったからなのか、長年胸につかえていた重しが取れたのか、大きく息をついて紗雪はにっこりと笑った。
「……ずるいぜ紗雪……今になって、そんな事言うなんて……」
絞り出す様に貴晃が口にできたのは、その一言だけだった。
「酔っ払いの言う事よ……酔っ払いの……」
事更に強調するのは、誰よりも自分自身を納得させたいからなのだろうか…全ては酔いのせいであると……貴晃は押し黙り、じっと紗雪を見つめていた。
「明日から、またいつも通りよ……ごめんね貴ちゃん……ごめん…ね。」
瞳の中では支えきれない雫がぽろぽろと溢れ、頬を伝って行く。
「紗雪……お前……」
「や、やだ!…あたしって、泣き上戸だったんだぁ!…あ、あはは……」
慌てて、取り繕(つくろ)う様に涙を拭う紗雪を見た瞬間、思わず貴晃は両腕で紗雪をしっかりと抱き締めていた。
「た、貴ちゃん?」
一瞬、驚いたものの貴晃の抱擁に応える様に紗雪の腕は広い背中にまわされる。
「どうして今日に限って、そんな事言うんだよ…」
「どうしてかしら……今、言わないと後悔しそうな気がしたから……かな?」
耳元で囁く様に紗雪は言って、そっと躰を離した。つぶらな瞳にじっと見つめられて、所在無げに貴晃の視線は彷徨(さまよ)う。
「困らせちゃった?迷惑かな?」
視線を逸らすと、目を伏せて紗雪は小さく溜息をついた。
「さ、紗雪……まいったな、そういう意味じゃ…」
スッと手が伸び、しなやかな人指し指が貴晃の台詞を止めた。
「変に気を遣われると、かえって辛いから……はっきり言って……」
答えに困って貴晃が口をつぐむと、紗雪は覗き込む様に顔を近付けてきた。
「幼馴染みとしてじゃなくて……好き?嫌い?せめて、それだけは知りたいの。じゃないと、辛いから……」
(このまま答えない訳にはいかないよな……)
そんな事を考えて貴晃は一つ息を付いた。
「俺も酔っちまったかな?」
「え?」
紗雪の真似をして、酔ったふりをすると貴晃も自らの胸の内を口にし始める。
「いつも一緒にいるのが当たり前だと思ってた。だから、彼氏ができたって聞いたとき、内心すごくショックだった。応援しながら、その後どれだけヘコんだ事か……結局、臆病だったんだよ俺も。だから、ちゃんと言うよ。一人の女性として、大好きだよ紗雪……」
再び訪れる沈黙……しかし、重いものではなくどこか気恥ずかしさが漂う沈黙だった。
「あ、あのさ……酔ったついでに、お願いしてもいい?」
ふいに沈黙を破り、紗雪が話しかけてくる。