『7月7日』-1
「今年の七夕も曇っちゃったねー」
「ん?」
「去年も曇りだったんだよ?天の川見えない」
ベランダに出て、空を見上げる。
夜でも分かるくらい、空は銀色の厚い雲に覆われている。
ベランダの柵にもたれて、私がブーブー言っていると、カレが裸足でベランダに出てきた。
「知ってる?七夕って日は織姫と彦星の年に一度の逢瀬の日なんだよ?」
お風呂上がりの私の長い髪を――
まだ濡れた髪をもてあそびながら、カレは言う。
「知ってるよ、そのくらい」
空を見たまま私は答える。
暖かい風が吹いた。
「だから、今夜は2人にとって甘い甘い夜になるワケよ」
カレの顔を見る。
楽しそうな表情のカレ。
「だから?」
「だからー、今夜は激しい逢瀬になるから、誰にも見られたくないワケ。だから、2人が厚いカーテンを閉めて、お楽しみの真っ最中ってコトなの」
空の…銀色の雲を指差し、カレは私を見て笑う。
「防音の?」
私も笑うと、カレは真面目な顔で、
「そうそう」と言う。
二人で、笑った。
それは、2人がまだ幸せだった頃の話――
幸せな、夫婦だった頃の話――
「シャワー、先に浴びていい?」
「どうぞ」
高級なホテルの一室。
ルームサービスのシャンパン。
高そうなグラスに注いだそれを飲みながら、カレはバスルームへの扉を開けて私を促す。
お姫様をエスコートする王子様のように。
こういうトコは以前のまま。
私は少し笑いながらバスルームへと入る。
大理石の床。
大きなバスタブ。
金色のコックを捻ると、同じく金色をしたシャワーから、少しぬるめのお湯が出た。
私はそれを少し熱くして、頭から浴びた。