『7月7日』-4
「オレ、結婚することになったんだ」
私を腕の中に包みこんで、カレは言った。
顔を見上げると、すぐ近くにカレの顔。
部屋は暗いけど、分かる。
私を見てるカレ。
困った顔を…してるんでしょ?
「…そう、おめでとう」
そう言うことしかできない。
だってこれは、想像していたこと。
容易く、想像出来ること。
「おめでとう」
もぉ一度、私が言うと、カレの腕に力がこもる。
「もぉ、逢えなくなる」
容易く想像出来ること。
でも…
でも、もしかしたら、カレが私の元へ帰って来て来れるかも…って思ってた。
泣いてはダメ。
カレを困らせる。
泣いてはダメ。
「奥さん、大事にしなよ」
私が言うと、カレは腕の力を緩めて、「ああ」と言った。
泣いてはダメ。
泣いてはダメ。
「じゃあ、私、帰るね」
ベッドから――
カレの腕からスルリと抜け出て、シャツを羽織る。
身支度を済ませ、バッグを取る。
「それじゃ、ね」
ベッドの上に座るカレに言う。
毎年、この瞬間が一番ツラかった。
でも、今日のが今までで一番ツライ。
だって、もぉ“来年”はないのだから。
カレが立ち上がり、近付いて来る。
暗い部屋の中、射し込む明かりが、カレのシルエットを映し出す。
目の前にカレが立つと、モノクロのカレが見える。
私の大好きな、顎のライン。
唇。
鎖骨。
胸。
肩。
手。
腰。
「咲…」
私を呼ぶ、声。
「…ごめんな」
こらえてた涙が、溢れだす。
とまらない。
「幸せに…なって…ね」
カレが優しいキスを、くれた。
涙に濡れた、キスを。