記念日(6月12日Ver)-2
「――もしもし?」
鈴奈の声。ザワザワした音が周りから聞こえる。
「俺、だけど。今どこ?」
電話しながら、外に行く準備をする。
「…今?駅だけど。」
「改札口、入っちゃった?」
入っていても行くつもりだけどね。
「まだ、これから。」
「じゃぁ、改札のトコで待ってて。」
棚にある物をポケットにしまって玄関を出る。
自転車で行けば駅まで10分。
大急ぎで向かう。
改札口で鈴奈が軽く手を振る。
「拓海、おでこ全開。」
俺の前髪を指で整える。
「だってぇ、鈴奈に早く会いたかったんだもん。」
冗談っぽく言う。
でも、本当に早く会いたかったんだよ。
そのまま、鈴奈の手を取って駅の傍にある公園に向かった。
「…わかった?」
鈴奈が顔を覗き込みながら聞いた。
俺は黙って頷いた。
「あたしは、拓海だけだよ?」
言い聞かせるように話す。
一番欲しかった言葉。
なんでわかったんだろう。
「俺ってわかりやすい?」
少し恥ずかしくなる。
「あたしが拓海をすんごく好きだからわかるんだよ。」
はにかみながら優しく笑う。
「んじゃ、お礼に飾る用の写真撮ろっかぁ。」
鈴奈の肩を抱いてデジカメを自分達に向ける。
「えぇぇっ!?」
驚いているようだけど、構いません。
好きって言ってもらえたから。
俺だけだって言ってもらえたから。
「だって〜、2人だけで写ってる写真持ってないんだもぉん。」
照れている鈴奈を横目に何枚か写真を撮る。
ふと思いついて
「あっ!」
と声を掛ける。
その声に反応した鈴奈がこちらを振り返った。
――ちゅっ。
「〜〜〜っ!!」
唇を離すと鈴奈は口を手で押さえ真っ赤になっている。
「ご馳走様〜。」
にっこり笑う。
「今、それ、写真で…っ。」
もちろんキスの決定的瞬間はデジカメに収めさせて頂きましたよ。
「後で、写真付きでフォトフレームをプ・レ・ゼ・ン・ト。」
呆気にとられている鈴奈にバイバイと手を振る。
さて、これから鈴奈にフォトフレーム買って、家でプリントしてっと。
決定的瞬間の写真を表に入れたら飾ってもらえなさそうだから、表面は2人で並んだ写真を入れてあげよう。
俺はワクワクしながら家路に着いた。
6月12日は恋人の日。
縁結びの神、聖アントニオの命日のイブにフォトフレームを恋人に贈り、出会えた幸せに感謝して2人の恋を見つめ合う日。
〜Fin〜