結界対者 第一章-9
そこは、先程の教室……
惨劇の前の教室……
俺は……
さっさと支度を済ませて帰ろうと鞄を開いている。
そこに、例の三人組が待ってましたとばかりに取り囲む。
なんだ、これ……
しかし、当然の事だが、俺はこいつらに用事も無ければ興味もない。
いや、俺はさっきも確か同じ事を……
「悪いけど、帰るから」
軽く言い置いて席を立つ、その拍子に正面に立つ一人と目が合う。
「あれ? 帰っちゃうのぉ? 残念だなぁ?」
ニヤニヤと笑う口元が斜めに歪み、その台詞とは正反対の敵意を匂わせる。
時代遅れのむさくるしい錆びた髪に、その数が示す意味を是非訊いてみたくなる両耳のピアス、ピアス、ピアス。
何処の学校にも、この手のジャンルの人間は何人かは居るのだろうが、目の前のこいつのセンスはおそらく、その中でも最悪だ。
「ああ、残念残念。じゃあな」
行き過ぎようと踵を返す、しかしその肩をすかさず掴まれる。
「ねえ、待ってよぉ?色々訊きたい事もあるんだよぉ?」
「じゃあな、って言ったけど? 聞こえなかった?」
「ねぇ? 一人暮らしとかしてるんだって?お金持ちなんだぁ?」
「……だったら、どうだってんだ?」
「挨拶代わりに財布よこせや、ひゃひゃはっ! 柊…… イクト君?」
全く、質の悪い……
当然、そんなもの渡す気はないから、軽く身構える。
相手もまた然り、財布なんてのは口実で、ただ単に俺が気に入らないだけらしい。
こっちは、早く帰りたいんだけどねぇ……
「あのさ、帰りたいんだけどな」
「その前に財布だ」
「ああ…… そうかよ……」
揉め事は嫌いだが、仕方が無い。
右腕を背中へ回して、尻のポケットから財布を取り出す仕草をしてみせる。
そして、右に体を捻った反動を使って、渾身の力を込めて……
額を……
「先生! 三馬鹿が、転校生の子をカツアゲしてますっ!」
仕掛けようとしたその時、教室の出入り口から勘高くバカでかい、女の声が此方の全てを震わせる如く響いた。
すると「三馬鹿」と呼ばれた、俺を囲む三人は「チッ」と舌打ちをしながら、俺の側から離れ教室の出口へと向かう。
なんだ、一体……
思わず、視線でそれらを追う。
その先には……
例の赤い瞳の女が得意気に、満面の笑みを浮かべて立っていた。